日々の生活の中で、理由のはっきりしない体の不調に悩まされていませんか?そんな症状の裏に、甲状腺の病気が隠れていることがあります。
橋本病(慢性甲状腺炎)は、日本人に多く見られる自己免疫性の疾患です。症状は、うつ病や加齢による体調の変化と見分けがつきにくいため、気づかずに放置してしまう人も少なくありません。
今回は、「橋本病とは何か」「原因は?」「どんな症状が出るのか」といった基本情報をわかりやすく解説します。体の変化に気づいたとき、正しい知識があなたの健康を守る第一歩になります。
目次
■なぜ女性に多い?橋本病(慢性甲状腺炎)とは
橋本病は代表的な自己免疫性甲状腺疾患です。自分の免疫が誤って甲状腺を標的にし、ゆっくりと炎症と破壊が進むため、ある時点から甲状腺ホルモンが足りなくなる「甲状腺機能低下症」を起こすことがあります。
◎甲状腺ホルモンが足りなくなると体に何が起きる?
甲状腺ホルモンは代謝の「エンジン」です。足りなくなると体の歯車がゆっくり回るようになり、疲れやすさや寒がり、むくみ、体重増加、便秘、皮膚の乾燥、声のかすれなどが少しずつ現れます。
進むと動作や思考のペースも落ち、日中の眠気や集中力低下を自覚する方もいます。
◎なぜ女性に多いのか、どの年代で目立つのか
自己免疫疾患は一般的に女性に多く、ホルモン環境や免疫の違いが関係すると考えられています。橋本病も同様で、妊娠・出産・閉経前後などホルモン変化が大きい時期に見つかりやすく、30〜40代女性の受診で判明することがしばしばあります。
■原因は?橋本病を引き起こす意外なきっかけ
根本原因は「自己免疫」です。体を守るはずの免疫が、自分の甲状腺の成分を敵とみなして反応してしまいます。どうしてその誤認が起きるのかは完全には解明されていませんが、体質(遺伝)と環境が重なって発症すると考えられています。
◎体の防御が標的を誤るとどうなるのか
甲状腺の組織内にリンパ球が集まり、慢性的な炎症が続きます。時間をかけて甲状腺の細胞が傷み、ホルモンを作る力がじわじわ低下します。初期は体がうまく補い、検査でも正常に見えることが多いのが特徴です。
◎体質(遺伝)と環境が重なるとき
家族内に甲状腺の自己免疫疾患があると、自分もなりやすい素因を持っている可能性があります。そこに生活上の出来事や体調の変化が加わると、発症の引き金になることがあります。
◎ストレス・妊娠・ヨウ素過剰が引き金になるケースも
強いストレス、妊娠・出産、ヨウ素(ヨード)の過剰摂取は、甲状腺のバランスを一時的に崩すことがあります。海藻の多食、ヨードを含むうがい薬、造影検査などが続くと、もともと橋本病の素因がある人では機能低下が表面化し、症状がはっきりしてくることがあります。
■橋本病の症状とは
橋本病の症状は、甲状腺が腫れることによる首の違和感と、ホルモン不足に伴う全身症状に大きく分けられます。進み方は人それぞれで、ゆっくり現れるため気づきにくいのが特徴です。
◎甲状腺腫大による違和感
甲状腺が腫れることで、首元に圧迫感や違和感を感じることがあります。喉にしこりを感じたり、飲み込みづらさを訴える方もいます。
◎全身の代謝が低下することで現れる症状
代謝が落ちると、倦怠感や冷え、むくみ、体重増加、便秘、皮膚や髪の乾燥、動作の鈍さ、日中の眠気が出てきます。心拍がゆっくりになり、運動時に息切れを感じることもあります。血液検査ではコレステロールが上がったり、軽い肝機能異常や貧血が見つかることがあります。
◎うつ病や認知症と間違われやすい理由
思考のペース低下や物忘れ、気力の低下が前面に出ると、気分の病気や年齢のせいと受け止められがちです。甲状腺の検査で原因がはっきりすれば、適切な治療で改善が期待できます。
■どうやって診断する?橋本病の検査
診断の基本は、血液検査と超音波(エコー)検査です。診察では、甲状腺が全体的に腫れている、もしくは萎縮していることが手掛かりになります。
◎血液検査でわかる「自己抗体」とは?
橋本病では、抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体といった自己抗体が陽性になることが多く、診断の助けになります。同時にTSH、FT4などのホルモン値を測り、機能が正常か、潜在的な低下か、明らかな低下かを確認します。
◎エコー検査で見える橋本病の特徴
甲状腺エコーでは、組織がやや黒っぽく(低エコー)均一でなく見えるなどの所見が手掛かりになります。しこりが疑わしい場合は専門的な評価を行いますが、橋本病の診断のために細胞診を行う場面は多くありません。
■放っておいても大丈夫?
甲状腺機能が正常なら治療は不要で、定期的な経過観察が基本です。ただし、機能が低下してくると治療が必要になります。
◎甲状腺機能が低下すると、どう治療する?
FT4が低下し、TSHが上昇する「顕性甲状腺機能低下症」では、レボチロキシン(T4製剤)で不足分を補います。薬は体の必要量に合わせて調整し、飲み続けることで日常生活は通常通り送ることができます。
甲状腺が急に大きくなる、症状が急に強くなる、といった場合は別の病気(まれに甲状腺リンパ腫など)の可能性もあるため、早めに受診しましょう。
◎「潜在性」と診断されたら気をつけるべきこと
TSHだけが上がり、FT4が保たれている段階を「潜在性」と呼びます。多くは経過観察ですが、妊娠を希望する場合や、TSHが高めでコレステロール異常がある場合は、補充療法を検討することがあります。ヨウ素の過剰摂取を避け、定期的に血液検査で様子を見ましょう。
■橋本病と付き合いながら、元気に過ごすために
橋本病は珍しい病気ではなく、経過も人それぞれです。甲状腺機能が保たれている時期は治療を必要としないことが多く、定期チェックと生活の工夫で十分にコントロールできます。
疲れやすさ、むくみ、寒がり、気分や思考のペース低下など、思い当たる不調が続くなら、一度甲状腺の血液検査とエコーで確認してみましょう。
妊娠・出産期や産後は変化が起きやすいため、気になる場合はご相談ください。