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甲状腺の病気は治るの? 完治の可能性と長期管理の違い


「甲状腺の病気は一度なったら治らないの?」そんな不安や疑問を抱いている方も多いかもしれません。風邪のように「数日寝ていれば元通り」とはいかないのが、この病気の少し難しいところです。


しかし、正しく理解して付き合っていけば、これまで通りの元気な毎日を送れます。ここでは、甲状腺の病気における「治る」ということの本当の意味や、長く付き合っていくためのポイントについて、わかりやすく解説します。


■甲状腺ってなに? 体の中の小さな調整役


甲状腺は、喉ぼとけのすぐ下あたりにある、蝶が羽を広げたような形をした小さな臓器です。毎日元気に活動するために欠かせない、とても大切な役割を担っています。

◎喉にある「元気の源」を作る工場

甲状腺は、小さいけれど体全体の「元気の源」を作り出す工場のような場所です。


この工場で作られるのが「甲状腺ホルモン」です。甲状腺ホルモンは、血液に乗って全身に運ばれ、心臓を動かしたり、体温を調節したり、脳の働きを活性化させたりと、体の新陳代謝を活発にする命令を出しています。車で例えるなら、エンジンのアクセルペダルのような役割を想像してみてください。


◎甲状腺ホルモンが多すぎたり少なすぎたりすると?

アクセルペダルの調整がうまくいかなくなると、体にさまざまな不調が現れます。


ホルモンが多すぎる状態は、常にアクセルを全開にして空ぶかししているようなものです。じっとしていても心臓がドキドキしたり、暑がりになって大量の汗をかいたり、食べても痩せてしまったりする場合があります。


反対にホルモンが少なすぎる状態は、ガス欠の車のようにエネルギーが足りない状態です。ひどく寒がりになったり、いつも眠くてだるかったり、顔や体がむくんだりすることも。このように、甲状腺は体の調子を一定に保つための重要な調整役なのです。


■「治る」の意味が違う? 甲状腺の病気の特徴


甲状腺の病気においては、この「治る」という言葉の捉え方が少し違います。


◎「完治」と「寛解(かんかい)」の違いを知ろう

風邪や怪我のように、治療すれば完全に元に戻ることを「完治」といいます。甲状腺の病気、ホルモンのバランスが崩れる病気の多くは、この「完治」が難しいことがあります。


その代わりに目指すのが「寛解(かんかい)」という状態です。


これは、薬などで症状が落ち着いていて、検査の数値も正常になり、日常生活に支障がない状態のことを指します。一見すると治ったように見えますが、体質そのものが変わったわけではないため、治療をやめるとまた症状が出てくる可能性があります。


◎なぜずっと薬を飲む必要があるの?

甲状腺の病気の多くは、自分の体を守るはずの免疫システムが、誤って自分の甲状腺を攻撃してしまうことで起こります。この免疫の誤作動を根本的に止める方法は、今の医学ではまだ完全には確立されていません。


そのため、壊れてしまった調整機能の代わりに、薬を使ってホルモンの量をコントロールする必要があります。足りなければ補い、多すぎれば抑える。こうして薬の力を借りて体を正常な状態に保ち続けることが、甲状腺の治療の基本なのです。


■代表的な甲状腺の病気と治療のゴール


甲状腺の病気にはいくつか種類があり、それぞれ治療の目標が異なります。ここでは代表的な3つのタイプについて見ていきましょう。


◎バセドウ病:ホルモンが過剰になる病気

バセドウ病は、免疫の異常によって甲状腺が刺激され続け、ホルモンが過剰に作られてしまう病気です。


治療のゴールは、過剰なホルモン産生を正常に戻すことになります。まずはホルモンの合成を抑える飲み薬から始めることが一般的です。再発することもあるため、定期的なチェックは欠かせません。


◎橋本病(慢性甲状腺炎):ホルモンが不足する病気

橋本病は、慢性的な炎症によって甲状腺の細胞が少しずつ壊れていく病気です。進行するとホルモンを作る力が弱まり、ホルモン不足(甲状腺機能低下症)になります。


一度壊れてしまった甲状腺の細胞は、残念ながら元には戻りません。そのため治療のゴールは、不足しているホルモンを薬で補い、元気な状態を保ち続けることになります。


◎甲状腺腫瘍:しこりができる病気

甲状腺の中に「しこり(結節)」ができるタイプです。その多くは良性で、すぐに命に関わるようなものではありません。


良性であれば、大きさや性質が変わらないか定期的に検査をして様子を見ます。もし悪性(がん)であった場合や、良性でも大きすぎて喉を圧迫する場合などは、手術で取り除くことが治療のゴールです。


手術で甲状腺をすべて取った場合は、その後はホルモンを補う薬を飲み続けることになります。


■治療を続ければ普通の生活ができる!


適切な治療を受けていれば、健康な人と全く変わらない生活を送れます。


◎薬とうまく付き合うコツ

甲状腺の薬は、毎日忘れずに飲むことが何よりも大切です。飲んだり飲まなかったりすると、体の中のホルモンバランスが乱高下してしまい、かえって体調が悪くなってしまうこともあります。


◎定期的な検査が大切な理由

甲状腺ホルモンの量は、目に見えません。自分では調子が良いつもりでも、知らず知らずのうちに数値が悪化していることがあります。


今の薬の量が体に合っているかを確認するためには、定期的な血液検査が不可欠です。体調の変化や、季節の変わり目などで必要な薬の量が変わることもあります。


自己判断で通院をやめたりせず、医師と二人三脚で管理していくことが、長く元気に過ごすための秘訣です。


■正しい知識で、元気に過ごそう


甲状腺の病気は決して怖い病気ではありません。薬で適切にコントロールできていれば、スポーツも、勉強も、将来の仕事や妊娠・出産も、あきらめる必要はないのです。


大切なのは、病気を正しく理解し、自分の体のリズムを知ることです。「寛解」や「良い状態の維持」を目標に、焦らずゆっくりと付き合っていきましょう。


清水ヶ岡糖尿病内科・皮フ科クリニック
医師
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