
甲状腺の手術を控えている方や、術後の体調に不安を感じている方にとって、「合併症」や「後遺症」という言葉は重く響くかもしれません。
しかし、これらは決して「手術の失敗」を意味するものではなく、体が回復していく過程で起こりうる反応の一つです。
今回は、甲状腺の手術後に起こる可能性がある「合併症」や「後遺症」について、分かりやすく解説します。
目次
■甲状腺の手術後に起こりやすい「合併症」と「後遺症」
手術の説明を受ける際に「合併症」や「後遺症」という言葉を耳にすると思いますが、まずはこの二つの違いを整理しておきましょう。
◎「合併症」と「後遺症」の違いとは?
合併症は、術直後から数日以内に現れる一時的な症状で、時間の経過とともに落ち着くものが大半です。
対して後遺症は、甲状腺を摘出したことでホルモン剤の内服を続ける必要があるなど、退院後も続く状態を指します。
どちらも治療法が確立されているため、過度に恐れる必要はありません。
◎なぜ起こるの?首の複雑な構造と手術の影響
甲状腺のすぐ裏側には、声を司る神経やカルシウムを調節する臓器が接しています。手術で病変を丁寧に取り除く際、これらの繊細な組織が一時的に刺激を受けたり、血流が変化したりすることで症状が現れることがあります。
■【合併症①】声の変化(かすれ・高い声が出ない)
手術後、声がかすれたり出しにくくなったりすることがあります。これは声帯を動かす神経が甲状腺に極めて近いためです。
神経が切れたわけではなく、手術の刺激でお休み状態になっている一時的な変化であることがほとんどです。
◎声帯を動かす神経(反回神経)への影響と回復の目安
声を出す「反回神経」が刺激を受けると、声が枯れたりささやき声のようになったりします。多くは数週間から数ヶ月かけて、神経の腫れが引くのとともに元の声に戻っていきます。無理に声を出そうとせず、喉を労わりながら回復を待つのが基本です。
◎高い声が出にくい、歌いにくい(上喉頭神経への影響)
高い声を調節する「上喉頭神経」が影響を受けると、普通の会話には支障がなくても、歌や大声が出しにくくなることがあります。日常的なコミュニケーションで困ることは少ないですが、時間の経過とともに少しずつ喉の使い勝手が馴染んでいくのを待ちましょう。
◎食事の時の「むせ」:飲み込みをスムーズにする工夫
喉の神経の動きが鈍くなると、飲み物が気管に入りやすくなり、激しくむせることがあります。これを防ぐには、顎を引いてゆっくり飲み込む工夫が有効です。喉の機能が戻るまでは、サラサラした水よりも、少しとろみのある飲み物の方が飲み込みやすい場合もあります。
■【合併症②】手足や唇のしびれ(低カルシウム血症)
術後数日以内に、指先や唇にピリピリとしたしびれを感じることがあります。これは血液中のカルシウム濃度が一時的に下がることで起こるサインです。病院ではあらかじめ予測して検査を行っているため、症状が出た際には薬で速やかに対処します。
◎カルシウムを調節する「副甲状腺」が一時的に休む理由
甲状腺の裏にある「副甲状腺」は、体内のカルシウムバランスを保つ司令塔です。手術の刺激でこの働きが一時的に鈍くなるとカルシウム不足が起こりますが、残った副甲状腺が活動を再開すれば、しびれの症状は自然に消えていきます。
◎しびれが出た時の対処法:お薬(カルシウム剤)の役割
しびれが出た際は、足りないカルシウムを飲み薬や点滴で補うことで、症状を抑えていきます。処方されたカルシウム剤やビタミンD製剤を指示通りに服用することが大切です。血液データを確認しながら、薬の量は段階的に調整されていきます。
◎いつまで続く?日常生活で気をつけるポイント
多くの方は数週間から数ヶ月で薬が不要になります。しびれが出ている間は無理な運動を避け、落ち着いて生活しましょう。もし内服を続けていてもしびれが強まる場合は、早めに主治医に相談して薬の量を微調整してもらうのが安心です。
■【合併症③】術後の首の腫れと息苦しさ(術後出血)
発生頻度は非常に低いですが、手術した場所で再び出血が起きる「術後出血」には注意が必要です。首の内側に血が溜まると気管を圧迫する恐れがあるため、手術当日から翌日にかけて、病院スタッフは厳重にこのリスクを観察しています。
◎まれに起こる「術後出血」がなぜ緊急事態なのか
首の中は余裕のあるスペースが少ないため、内側で出血が起きると短時間で気管が圧迫され、呼吸が苦しくなる危険があります。そのため、万が一出血が起きた場合には、速やかに止血処置を行う必要があります。
◎こんな時はすぐに連絡!見逃してはいけないサイン
「急に首がパンパンに腫れてきた」「喉に強い圧迫感がある」「息が吸い込みにくい」と感じたら、すぐにナースコールなどで知らせてください。患者さん自身の感覚による「いつもと違う苦しさ」は、早期発見のための重要なサインとなります。
■【その他の症状】知っておきたい違和感とセルフケア
大きな合併症以外にも、退院後の生活でふと感じる違和感があります。これらは体が治ろうとする過程で起こる自然な反応であることが多いため、原因を知って上手に付き合っていきましょう。
◎首のつっぱり・飲み込みにくさ・キズあとの赤み
傷が治る過程で周囲の組織が硬くなり、首がつっぱったり喉に異物感が出たりすることがあります。これらは半年から1年ほどかけて少しずつ柔らかくなり、自然に馴染んでいきます。無理のない範囲で首を動かすようにしましょう。
◎体がだるい、疲れやすい(甲状腺ホルモンの不足)
甲状腺を切除したことでホルモンが不足すると、だるさや寒気を感じることがあります。これは「甲状腺機能低下症」という状態ですが、足りない分をホルモン剤で適切に補えば、手術前と変わらない元気な生活を送り続けることが可能です。
■退院後の体調管理と受診のタイミング
自宅でのケアと、病院へ連絡すべき基準を整理しておきましょう。適切なセルフケアはキズあとをきれいにし、余計な不安の解消につながります。
◎首のキズあとをきれいに治すための「保護テープ」
キズあとを目立たなくするには、紫外線を避け、皮膚が引っ張られないように保護することが重要です。専用のテープを数ヶ月間貼ることで、赤みや盛り上がりを少なく抑えられます。テープの貼り替え頻度は病院の指導に従いましょう。
◎病院へ連絡すべき症状
「急激な首の腫れや息苦しさ」が出た場合や、「薬を飲んでも改善しない強いしびれ」がある場合は、すぐに受診してください。また、キズ口が赤く腫れて熱を持ったり、膿が出てきたりした際も、感染の可能性があるため早めの診察が必要です。
■正しい知識を持って、焦らず一歩ずつ回復へ
甲状腺手術後の合併症や後遺症には、必ず適切な対処法があります。一時的な変化に驚くこともあるかもしれませんが、焦らず自分のペースで、穏やかな療養生活を送っていきましょう。
異変を感じたときに一人で抱え込まず、相談してください。正しい知識を持って、毎日の小さな回復を積み重ねていきましょう。

