最近、動悸や手の震え、汗が止まらないといった症状に悩んでいませんか? その原因のひとつに考えられるのが「バセドウ病」です。
バセドウ病とは、甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、体の代謝が必要以上に高まってしまう病気で、特に20〜30代の女性に多く見られます。
放置すると心臓や骨に負担をかけるため、早期発見と適切な治療がとても大切です。今回は、バセドウ病とはどんな病気なのか、その原因や症状について分かりやすく解説します。
目次
■バセドウ病とは?若い女性に多い甲状腺の病気
甲状腺は、体のエネルギー代謝や体温調節、心臓や消化、精神のはたらきまで幅広く支える重要な臓器です。ここから分泌される甲状腺ホルモンが必要以上に増え、全身が“フルスロットル”の状態になる病気がバセドウ病です。
患者数は人口1000人あたり数人とされ、20〜30代の女性に比較的多いのが特徴ですが、男性や高齢者でも起こり得ます。
◎甲状腺ホルモンが体を支えるしくみ
首の前側、のど仏のすぐ下にある甲状腺は、食事由来のヨウ素を材料に、fT3(トリヨードサイロニン)とfT4(サイロキシン)という二つのホルモンを作ります。これらは血液に乗って全身の細胞に届き、代謝を高め、体温を保ち、心拍や腸の動きを調整し、筋肉や脳の活動を助けます。これが甲状腺の働きです。
通常は脳の下垂体から出るTSH(甲状腺刺激ホルモン)が分泌量の“司令塔”として働きますが、バセドウ病ではこの精密な調節が乱れ、甲状腺ホルモンが過剰になります。
◎「バセドウ病」と「グレーブス病」名前の違い
バセドウ病は、ドイツの医師バセドウの報告にちなんだ日本での呼び名です。英語圏では同じ病気を報告したイギリスの医師グレーブスの名から「グレーブス病(Graves’ disease)」と呼ばれます。
どちらも、自己免疫の仕組みが原因で甲状腺ホルモンが出過ぎる同じ病態を指します。
■バセドウ病の原因はストレスや体質?
「なりやすい体質」に、生活環境やライフイベントが重なって発症すると考えられています。家族に患者さんがいると発症しやすくなる一方で、遺伝だけで決まるわけではありません。
◎自己免疫が引き起こす甲状腺への攻撃
本来は細菌やウイルスから体を守る免疫が、誤って自分の甲状腺を刺激してしまうのが出発点です。鍵を開ける“合鍵”のように、TSH受容体という甲状腺のスイッチに結合する自己抗体が作られ、スイッチが押しっぱなしの状態になります。
その結果、甲状腺はTSHの命令がなくてもホルモンを作り続け、血液中のfT3・fT4が高い状態になります。
◎発症を後押しする環境要因(ストレス・出産・喫煙など)
強い心理的・身体的ストレス、妊娠や出産といったホルモン環境の大きな変化、ウイルス感染、過労、喫煙などが発症や悪化の引き金になることがあります。喫煙は治療の効きにくさや目の症状(バセドウ病眼症)の悪化とも関係が示されており、禁煙は重要なセルフケアです。
■バセドウ病の症状をチェック!手の震えや動悸だけじゃない
甲状腺ホルモンが増えすぎると、体は常にアクセルを踏んだ状態になります。症状は全身に及び、強さや組み合わせは人それぞれです。気になるサインが続くときは、受診して血液検査(TSH・fT3・fT4・TSH受容体抗体)や超音波検査で確かめるのが安心です。
◎全身に現れる典型的な症状(動悸・体重減少・多汗など)
よくみられるのは、じっとしていても心臓がドキドキ速く打つ動悸、食べているのに体重が落ちる、暑がりで汗が止まらない、手の細かい震え、疲れやすさ、軟便や下痢です。甲状腺自体が全体的に腫れて首が太く感じることもあります。
男性では、運動後や炭水化物を多く食べた後に急に手足に力が入りにくくなる「周期性四肢麻痺」を起こすことがあり、早期対応が必要です。
◎心や神経にも影響(不眠・いらいら・筋力低下など)
眠りが浅くなったり、そわそわして落ち着かない、いらいらしやすいなど精神面の変化も目立ちます。
筋肉は分解が進みやすく、太ももなどの近位筋を中心に力が入りにくい、階段がつらいといった筋力低下が出ることもあります。放置すると心房細動などの不整脈や、長期的には骨の弱まりにもつながるため注意が必要です。
◎目の症状に要注意!バセドウ病眼症とは
免疫の影響が眼の周囲にも及ぶと、まぶたの腫れや違和感、乾燥感、まぶしさ、視界のにごり、眼球突出などの「バセドウ病眼症」が起こります。眼の症状が強い場合は、内科治療と並行して眼科での専門的な評価と治療が必要です。
軽い違和感から始まり、まぶたが閉じにくい、目が出て見えるなど、見た目や見え方に影響する段階まで幅があります。喫煙者では悪化しやすいため、禁煙することが対策のひとつになります。
◎女性・高齢者に特徴的な症状の出方
女性では月経不順や無月経が見られることがあり、妊娠を考えている方は甲状腺機能の管理が大切です。妊娠初期は薬にも注意が必要になるため、主治医と綿密に相談しましょう。
高齢者では動悸や発汗といった典型症状が目立たず、食欲不振や元気がない、体重減少だけが目立つ「無症候型」に見えることがあります。見逃されやすいため、「最近やせてきた」「なんとなくしんどい」が続く場合も甲状腺をチェックする価値があります。
■バセドウ病は早期発見と治療でコントロールできる病気
バセドウ病とは、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで体にさまざまな症状を引き起こす自己免疫性の病気です。原因には体質やストレス、出産、喫煙などの環境要因が関わり、動悸や手の震え、体重減少、多汗、眼球突出といった全身症状が現れることがあります。
放置すると心臓や骨、妊娠・出産にも影響を及ぼすため、早めの診断と治療が大切です。
気になる症状が続くときは自己判断で様子をみず、早めにご相談ください。