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握力の低下は死亡率上昇と関連する

こんにちは、様々な疾患の患者さんでは筋肉量が低下し、また筋肉量が減少すると握力が低下することも知られています。今回の文献では握力低下が死亡率上昇と相関することを示しており、また疾患発症リスク評価に握力を計測することが有用であるとしています。

詳しい内容は以下を参考にしてください。
Associations of grip strength with cardiovascular, respiratory, and cancer outcomes and all cause mortality: prospective cohort study of half a million UK Biobank participants
CA Celis-Morales et al. BMJ 2018361    

英国の40歳から69歳までの一般市民を対象に、ベースラインの握力とその後の総死亡率や、特定疾患の発症率と死亡率を調べた英国Glasgow大学のCarlos A Celis-Morales氏らは、同年代で同じ性別の人より握力が弱い人では、一部の例外を除いて疾患による死亡率が増加する傾向を示したと報告した。

 骨格筋は、体の動きをコントロールする以外に、蛋白質の貯蔵庫として機能し、糖の取り込みやエネルギー代謝にも重要な役割を果たしている。癌や呼吸器疾患、慢性腎臓病、感染症など、多様な疾患の患者で、筋肉量が減少していることも知られている。そこで著者らは、握力と総死亡率、各種疾患の発症率と疾患特異的死亡率の関係について検討し、外来で用いられるリスク評価指標に握力を追加すると、リスク予測能力が高まるかどうかを調べるために、住民ベースの前向き研究を行った

 UK Biobankは世界の医学研究者が利用可能なコホートで、様々な疾患の研究に用いるため、イングランド、ウェールズ、スコットランドの22カ所の評価センターで40~69歳の市民から参加者を募集して、2007年4月から2010年12月までに50万2628人を登録している。参加者はベースラインの健康状態を評価し、血液・尿・唾液検査などを行っている。UK Biobankの追跡データから、総死亡率、心血管疾患、呼吸器疾患、COPD、癌(あらゆる癌、大腸癌、肺癌、乳癌、前立腺癌)による入院と死亡イベントと、握力の関係を調べることにした。

 最初に握力を連続変数として扱い、男女別に握力が5kg減る毎のイベントリスクのハザード比を求めた。次にこれまでの研究や報告と比較するために、参加者を年齢(56歳未満、56~65歳、65歳超)と性別に基づいて層別化し、さらに各グループを、ベースラインの握力に基づいて四分位群にわけ、各グループの最高四分位群をリファレンスにして、握力の低下とイベント発生リスクを比較することにした。

 データの補正に用いる共変数として、ベースラインの社会人口学的要因(年齢、性別、人種、居住地域)と、登録したのは何月か、喫煙習慣、身長、BMI、身体活動量、1日あたりの座っている時間、食生活などに関する情報を得た。また、ベースラインで、糖尿病、高血圧、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、抑うつ、癌、長年患っている疾患の有無を確認した。

 UK Biobankの登録者50万2628人のうち、握力の測定を受けていた50万2293人(女性が54%)を分析対象にした。平均7.1年(範囲は5.3~9.9年)の追跡で、1万3322人(2.7%)が死亡していた。心血管死亡は3033人(0.6%)、呼吸器疾患死亡は2026人(0.4%)、5738人(1.1%)は癌死亡だった。特定の疾患の発症率に関する追跡期間は6.1年(範囲は4.4~9.0年)で、2万8059人(5.6%)が心血管疾患を、1万542人(2.1%)が呼吸器疾患を、2万7704人(5.5%)が癌を発症していた。

 最高四分位群に比べ、最低四分位群には貧困者の割合が高く、喫煙者、肥満者が多く、合併症として癌、心血管疾患、糖尿病、抑うつ、高血圧などの患者も多かった。また、握力の最低四分位群は、身長が低く、BMI・ウエスト周囲径・体脂肪率は高く、アルコールと果物や野菜の摂取量は少なく、身体活動度が低くてTV視聴時間が長かった。

 握力が5kg減る当たりの補正後の総死亡率のハザード比は、女性が1.20(95%信頼区間1.17-1.23)、男性は1.16(1.15-1.17)だった。疾患別死亡率についても同様で、心血管死亡のハザード比は、女性が1.19(1.13-1.25)、男性は1.22(1.18-1.26)、あらゆる呼吸器疾患による死亡のハザード比は、女性1.31(1.22-1.40)と男性1.24(1.20-1.28)、COPDによる死亡については、女性1.24(1.05-1.47)と男性1.10(1.07-1.13)、あらゆる癌による死亡は、女性1.17(1.13-1.21)と男性1.08(1.03-1.13)だった。癌の種類では大腸癌死亡は女性1.17(1.04-1.32)と男性1.18(1.09-1.13)、肺癌死亡は女性1.17(1.07-1.27)と男性1.08(1.03-1.13)、女性の乳癌死亡は1.24(1.10-1.36)でいずれも有意なリスク上昇を示したが、前立腺癌死亡のハザードは1.05(0.96-1.15)で、有意差を示さなかった。

 各疾患の発症率についても同様で、握力が5kg減る当たりの補正後の心血管発症率のハザード比は、女性が1.15(1.13-1.17)、男性は1.11(1.10-1.12)、呼吸器疾患発症率のハザード比は、女性1.22(1.19-1.25)と男性1.17(1.15-1.19)、COPD発症率は、女性1.20(1.12-1.29)と男性1.15(1.09-1.21)、あらゆる癌の発症率は、女性1.10(1.09-1.11)と男性1.06(1.05-1.07)、大腸癌発症率は女性1.08(1.02-1.14)と男性1.08(1.05-1.11)、肺癌発症率は女性1.15(1.08-1.23)と男性1.08(1.03-1.13)、女性の乳癌発症率は1.09(1.06-1.12)で、男性の前立腺癌発症率のハザードも1.04(1.01-1.07)と有意なリスク上昇が見られた。

 握力と年齢には相関が見られ、高齢の患者より若い患者で、握力が5kg減る当たりのハザード比が高くなっていた。該当する項目は、女性では総死亡率、あらゆる癌による死亡率、心血管疾患の発症率、COPDの発症率、あらゆる癌の発症率、肺癌の発症率が有意な関係を示し、男性では、総死亡率、心血管疾患死亡率、呼吸器疾患死亡率、COPD死亡率、あらゆる癌死亡率、肺癌死亡率、心血管疾患の発症率、COPDの発症率、あらゆる癌の発症率、肺癌の発症率、前立腺癌の発症率が当てはまった。

 「Foundation for the National Institutes of Health Sarcopenia Project」が筋力低下のカットオフ値に用いている握力(男性26.0kg以下、女性16.0kg以下)を当てはめて、カットオフ値より高い群と低い群を比較すると、やはり多くのイベントで補正後のハザード比に有意差が生じた。例外的に握力で差がつかなかったのは、男女の肺癌死亡率、前立腺癌死亡率、女性の大腸癌発症率、男女の肺癌発症率、前立腺癌の発症率だった。

 既に確立されている、年齢、性別、糖尿病、BMI、収縮期血圧、喫煙習慣に基づくリスク評価指標に握力を追加すると、予後予測の精度を示すC統計量は0.013向上した(ROC曲線下面積が増加した)。心血管疾患死亡の予測能力も0.012向上、心血管疾患発症率の予測能力も0.009向上した。

 これらの結果から著者らは、握力の低下は、総死亡率の増加、特定疾患の発症率と疾患特異的死亡率の増加と関係していた。握力は血液検査などが行えない場所でも測定が可能であることから、今後はより有効な活用法についての研究が必要だと結論している。