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尿酸値の変動は食生活より遺伝的な要因が大きい

こんにちは、尿酸値が高いと痛風や血管障害を生じるため食事・運動療法や薬物治療が必要になることがあります。今回の文献では米国でのデータですが尿酸値に影響を与えるのは食生活よりも個々人の遺伝的要因が大きいことが示されています。食事療法は重要ではあるものの改善が乏しければ薬物治療を早くから行う必要があるかもしれません。

詳細は以下を参考にしてください
Evaluation of the diet wide contribution to serum urate levels: meta-analysis of population based cohorts
TJ Major et al.  BMJ 2018;363

ニュージーランドOtago大学のTanya J Major氏らは、痛風ではない米国の人々を対象に、血清尿酸値と食生活の関係を調べた横断研究データを用いたメタアナリシスを行い、食事の内容は血清尿酸値に影響は与えるが、一般集団の血清尿酸値の変動に対する食生活の寄与は、遺伝的な要因に比べると遙かに小さかったと報告した。

 血清尿酸値は、尿酸の産生と排出のバランスによって決定される。このバランスには遺伝的な要因と環境要因が影響を与える。家族や双生児を対象とする研究では、血清尿酸値変動の25~60%は遺伝的要因により説明できることが示されている。一般集団を対象とする全ゲノム関連解析でも、ばらつきの25~40%は一般的な一塩基多型(SNPs)によって制御されることが示唆されている。従って、血清尿酸値の分散の60~75%は、既に知られているSNPs以外の遺伝的な要因と、非遺伝的な要因である食事や環境曝露によって説明されるはずだ。

 何世紀にもわたって、食事が痛風発症の危険因子であることは知られている。赤身肉、貝や甲殻類、アルコール飲料、加糖飲料、トマトは尿酸値上昇と関連があり、低脂肪乳やコーヒーは血清尿酸値の低下と関連がある。地中海ダイエットやDASH食は、尿酸値を下げ、痛風リスクも下げることが示されている。また、ゲノムワイド解析で、コーヒーやアルコールを消費する習慣と関連する遺伝子が特定されている。そこで著者らは、食生活の中で個々の食品が血清尿酸値に与える影響を調べ、SNPsと食生活が血清尿酸値の変動に与える影響の大きさを相対的に定量化しようと考えた。

 対象は、食生活を調査し、遺伝子検査も行っていた米国で行われた5件のコホート研究から選ぶことにした。1987~89年のAtherosclerosis Risk in Communities(ARIC)研究、1985年のCoronary Artery Risk Development in Adults(CARDIA)研究、1989~90年のCardiovascular Heart(CHS)研究、2002~05年のFramingham Heart(FHS)研究、1988~91年のNational Health and Nutrition Examination Survey(NHANES III)研究を選んだ。ただし、NHANES IIIは表現型データのみでジェノタイプデータがないため、遺伝子分析には含めなかった。

 これらの研究の参加者から、欧州系の移民を先祖に持つ人を選び出し、交絡因子(年齢、性別、BMI、1日当たりの摂取エネルギー、学歴、運動量、喫煙習慣、閉経前か後か)についても調べた。血清尿酸値を調べていない人、ゲノムワイド解析を受けていない人、年齢18歳未満の人、腎疾患や痛風がある人、尿酸降下薬や利尿薬を使用している人は除外した。食品摂取頻度調査の未記入項目が多い人、1日の平均摂取エネルギーが600kcal未満の人や4200kcal超の人、なども除外した。

 各研究で実施していた食品摂取頻度調査の記録は、1週間当たり何単位飲食しているかに換算した。63種類の食品を選び、それぞれのコホートで多変量線形回帰分析を行った。それぞれの食品の摂取量を1週間分追加すると、血清尿酸値をどのくらい変化させるか、各コホートのデータからメタアナリシスで統合したエフェクトサイズを推定した。有意水準はBonferroni法で多重比較補正し(0.05の63種類分)、P値<7.94×10-4の場合に、尿酸値を有意に増加または減少させる食品と判定した。

 63種類のうち、7種類の食品(ビール、蒸留酒、ワイン、ポテト、鶏肉、ソフトドリンク、肉[牛、豚、ラム])が尿酸値を上昇させ、8種類の食品(卵、ピーナッツ、温めないで食べるシリアル、スキムキルク、チーズ、黒パン、マーガリン、柑橘類以外のフルーツ)が尿酸値を低下させていた。

 尿酸値上昇への影響が最も大きかったビールと蒸留酒は、1週間の摂取量当たりの血清尿酸値上昇が1.38μmol/Lで、1日当たりに換算すると0.16mg/dLだった。男女別に分析すると、男性ではマーガリン摂取による尿酸値低下は有意にならなかった。また、女性の場合には、ワインによる尿酸値上昇と、卵、柑橘類以外のフルーツによる尿酸値低下は有意ではなかった。

 続いて、37種類の食品の摂取データに基づいて健康な食事法のスコアを算出した。Healthy Eatingスコア、Dashダイエットスコア、地中海ダイエットスコア、データドリブンダイエットスコア(非健康的な食品の摂取量が多いとスコアが高い)と血清尿酸値の関係について検討したところ、データドリブンダイエットのスコアは尿酸値の上昇と関連していたが、それ以外の3つのダイエットスコアは、血清尿酸値と逆相関関係を示した。

 個々の食品が血清尿酸値の変動幅にどの程度寄与するのかを調べたところ、寄与率が最大となったビールでも0.99%にすぎず、14種類の食品を合計しても、変動幅の3.28%しか説明できなかった。

 一方で、これまでに、尿酸値との関係が示されていた30の一般的なSNPsは、血清尿酸値の変動幅の8.7%を説明できた。さらに、全ゲノムのジェノタイプデータに基づいて血清尿酸値の分散の遺伝要因率を推定したところ、23.9%を説明できた。その割合は、男性では23.8%、女性は40.3%になった。

 これらの結果から著者らは、欧州系の米国人で痛風ではない一般人の母集団では、健康的な食習慣の人の方が血清尿酸値は低いが、遺伝的要因に比べると食生活が血清尿酸値の変動に与える影響は、かなり小さいと結論している。