
鏡を見たときや、ふと首に触れたときに「しこり」を見つけてしまうと、誰でもドキッとしてしまうものです。しかし、甲状腺にできるしこりは、そのすべてが恐ろしい病気というわけではありません。
まずは正しい知識を持って、冷静に自分の体の状態と向き合ってみましょう。
目次
■甲状腺の「しこり」=「がん」ではありません
のどぼとけの下にある甲状腺はしこりができやすい場所ですが、その多くは、実は良性です。しこりがあるからといって、過度に恐れる必要はありません。
◎「良性腫瘍」と「悪性腫瘍(がん)」の違い
しこりには大きく分けて「良性」と「悪性」の二種類があります。
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良性腫瘍 |
悪性腫瘍 |
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広がり方 |
その場で膨らむだけ |
周囲に染み込んでいく |
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転移 |
しない |
する(肺や骨などへ) |
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硬さ |
柔らかいことが多い |
石のように硬いことが多い |
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表面 |
ツルツルしている |
デコボコしていることが多い |
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動き |
クリクリとよく動く |
周りと癒着して動かない |
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命の危険 |
ほぼなし |
あり(治療が必要) |
※あくまで一般的な傾向です。
良性はその場で大きくなるだけで、他の場所に転移することはありません。一方、悪性である「がん」は、周囲の組織を壊したり、別の臓器へ転移したりする性質を持っています。
一般的には良性で柔らかく・よく動くことが多いですが、触診だけでは良性・悪性を確実に区別することは難しいため、自己判断は避けましょう。
◎90%近くが良性? まずは落ち着いて検査を
甲状腺にしこりが見つかった人のうち、実際に「がん(悪性腫瘍)」と診断されるケースは、全体の約10%程度だといわれています。つまり、残りの約90%は良性のしこりや、単なる腫れであることが多いのです。
統計的に見ても、圧倒的に良性である可能性の方が高いといえます。ただし、放置せずに確定診断のために超音波検査や細胞の検査を受けるようにしましょう。
※甲状腺がんについて:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
■気になる症状はありませんか?セルフチェックのポイント
甲状腺の病気は初期症状がほとんどありません。しかし、進行すると自分で触ったり鏡で見たりすることで気づける変化が現れることがあります。
◎鏡を見てチェック!しこりの硬さや動き
鏡の前で唾を飲み込んでみてください。甲状腺は唾を飲み込むと上下に動くため、しこりも一緒に動くのが特徴です。
また、手で触れた感触も重要です。良性は表面が滑らかで柔らかいことが多いですが、がんの場合は石のように硬かったり、癒着して動かなかったりすることがあります。
◎声のかすれやのどの違和感
しこりが大きくなったり、がんが周囲に広がったりすると、のどの違和感や圧迫感を覚えることがあります。特に注意したいのが「声のかすれ」です。
甲状腺の裏側には声帯を動かす神経が通っており、がんがこの神経に広がると、風邪でもないのに声が枯れることがあります。また、息苦しさやのどの圧迫感がある場合も早めの受診が必要です。
■なぜできるの?甲状腺がんになる原因
がんの原因はひとつではなく、様々な要因が複雑に関係しています。特定の原因をひとつに絞ることは難しいのが現状です。
◎遺伝や年齢、被ばくとの関係
甲状腺がんのリスク要因として知られているものの一つが、放射線の影響です。子どもの頃に首の周辺に大量の放射線治療を受けた経験がある場合や、被ばく事故などの影響はリスクを高めるとされています。
また、家族に甲状腺がんの人がいる場合、遺伝的な要因が関与することもあります。年齢や性別で見ると、若い世代から高齢者まで幅広く発症しますが、40代から50代の女性に多く見つかる傾向です。
◎はっきりした原因は不明なことも多い
いくつかのリスクはありますが、実際のところ多くの方において明確な原因は不明です。生活習慣が悪かったわけでも、誰かのせいでもありません。
細胞の遺伝子に何らかの傷がつき、それが積み重なってがん化すると考えられていますが、それは誰の身にも起こりうることです。診断を受けた場合は、原因探しより治療に目を向けることが大切です。
■ひとつだけじゃない!甲状腺がんの種類と特徴
甲状腺がんは、種類によって進行スピードや治りやすさが大きく異なるのが特徴です。
90%がこれ!進行がゆっくりな「乳頭がん・濾胞(ろほう)がん」
甲状腺がんの90%以上を占めるのが「乳頭がん」です。次に多いのが「濾胞(ろほう)がん」で、これらのがんは「分化がん」とも呼ばれ、正常な甲状腺の細胞に近い性質を持っています。
進行が非常にゆっくりで、適切な手術を受ければ命に関わることは少ないタイプです。「がん」のイメージとは異なり、予後良好なタイプが大半です。
※甲状腺がんについて:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
◎まれだけど注意が必要な「髄様(ずいよう)がん・未分化がん」
ごく稀ですが注意が必要なのが「未分化がん」などです。
髄様がんは遺伝性が関与していることがあり、専門的な検査が必要です。特に「未分化がん」は、高齢者に多く見られ、確率は低いですが週単位で急激に大きくなり、周りの臓器へ激しく広がる性質を持っています。
このタイプは見つかり次第、早めに集中的な治療が必要です。
■早期発見で治る可能性が高い病気です
甲状腺がんの多くは進行がゆっくりで、予後が良い病気です。しこりがあるからといって必要以上に怖がらず、まずは受診してください。早期に「良性か悪性か」をはっきりさせることが、安心への第一歩です。

