こんにちは、年末年始にかけ飲酒をする機会が増える人も多いと思います。今日は飲酒に関する文献を紹介します。本論文では飲酒と認知症の関係を調べていますが、ほどほどにアルコールを摂取する人が認知症リスクが低いようです。
以下が詳細な内容になります。
Alcohol consumption and risk of dementia: 23 year follow-up of Whitehall II cohort study
Sabia S et al. BMJ 2018;362:k2927
英国のWhitehall IIスタディのコホートを利用して、中年期から初老期までの飲酒量を調べ、その後の認知症リスクとの関係を調べた仏Paris-Saclay大学のSeverine Sabia氏らは、1週間の飲酒量が1~14ユニットの人に比べ、非飲酒者(たまにしか飲酒しない人を含む)と、14ユニットを超える量を飲酒する人では、認知症リスクが高かったと報告した。
適度な飲酒は認知症リスクを下げること、飲酒量と認知症リスクの関係は、J字型のカーブを描くことが示唆されている。しかし、これまでの研究にはいくつか欠点があった。大量飲酒者は追跡中に死亡したり離脱しやすく、認知症の診断から漏れてしまう。加齢研究の大半は、特定の時点での飲酒量を調べており、生涯の飲酒量を反映していない。認知機能にアルコールが及ぼすメカニズムが未知のままで、心血管代謝疾患も認知症リスクに関係するため、飲酒と認知症が直接関連するのかどうかが不明、などだ。
そこで著者らは、Whitehall IIスタディのデータを利用して、飲酒量と認知症のリスクを調べることにした。この研究は、もともと働き盛りの年代の市民を対象に、仕事やストレスと健康の関係を調べることを目的としたコホート研究だ。参加者はロンドン市内の公務員で、登録期間(1985~88年)にに35~55歳だった人。男性6895人、女性3413人、合計1万308人でスタートした。ベースラインから4~5年ごとに、診察と質問票による調査を継続している。飲酒量の質問票は、1985/88年、1989/90年、1991/93年、1997/99年、2002/04年、2007/09年、2012/13年、2015/16年の8回分の記録がある。
飲酒量は、質問票の回答を元に、お酒の種類と量からエタノールに換算して1週間当たりの飲酒量を決めた。中年期の飲酒量は1985/88年、1989/90年、1991/93年の測定量の平均とした。評価時点の対象者の平均年齢は50.3歳だった。
1985/88年の時点で過去5年間飲酒していないと回答し、さらに1989/90年と1991/93年の調査で、いずれも過去1年間飲酒していないと答えた人を10年飲酒していない人と判定した(269人)。1985/88年の調査で過去5年間で禁酒したと回答したが、1989/90年には飲酒しており、1991/93年には再び飲酒していなかった人々は過去の飲酒者に分類した(172人)。1985/88年、1989/90年、1991/93年の3回の調査の全てで、過去1年間には飲酒したが、過去1週間には飲酒していないと回答した人を機会飲酒者とした(862人)。これら3群の人々の認知症リスクを評価したところ同様だったため、今回の分析では、3群あわせて非飲酒者とした。飲酒者は、1985/88年から1991/93年までの飲酒量の平均に基づき、英国のガイドラインを反映するよう、1週間当たり1~14ユニットまでと14ユニット超に分けた。
中年期から初老期までの飲酒量の変化は、1985/88年(平均年齢44.8歳)から2002/04年(61.2歳)の間の増減を調べた。対象は2002/04年に認知症ではなく、それまでに2回以上飲酒量調査を受けていた8927人とし、非飲酒者の状態を維持、飲酒量が減少、1~14ユニットの状態を維持、飲酒量が増加、14ユニット超の状態を維持に分類した。
アルコール依存症の有無は、1991/93年にCAGE質問票を用いて調べ、2点以上の人を該当者とした。英国の入院統計から、参加者のアルコールに関連する慢性疾患による入院の有無を調べた。認知症の確認は、入院統計と死亡統計、さらに精神疾患全国データベースであるMental Health Services Data Setで調べた。
共変数として、人口動態(年齢、性別、人種、婚姻状態)、社会経済(職業上の地位、収入、学歴)、日常生活(喫煙状態、運動強度と時間、食習慣)、疾病(収縮期血圧、総コレステロール、糖尿病の有無、BMI、心血管疾患の病歴、治療薬の使用、不安やうつ症状)などに関する情報を調べた。
中年期の飲酒量と認知症リスクの分析対象になったのは、べースラインから1991/93年までに2回以上飲酒量の調査を受けており、1991/93年に生存していて、共変数に関する情報がそろっていた9087人。内訳は、非飲酒者が1303人、1~14ユニットが5552人、14ユニット超が2232人だった。平均23.2年間の追跡で、計397人が認知症を発症していた。認知症診断時の平均年齢は75.6歳だった。
飲酒量が1~14ユニットの集団を基準とすると、中年期に非飲酒者だった人の補正後の認知症のハザード比は1.47(95%信頼区間1.15-1.89)だった。一方、14ユニット超の人全体ではハザード比1.08(0.82-1.43)で差がつかなかったが、飲酒量が多いほど認知症リスクが直線的に上昇しており、7ユニット/週増加当たりのリスク上昇は17%(4-32%)だった。
CAGEスコアが0(アルコール依存なし)の人に比べ、2を超えている人のハザード比は2.19(1.29-3.71)で、追跡期間中に飲酒関連の慢性疾患によって入院していた人のハザード比は4.28(2.72-6.73)だった。
続いて中年期から初老期までの飲酒量と変化と認知症の関係を検討した。飲酒量が1-14ユニットの状態を維持していた人を基準にすると、以下のような状態だった人の認知症リスクは高かった。非飲酒者の状態を維持(ハザード比1.74、1.31-2.30)、飲酒量が減少(1.55、1.08-2.22)、14ユニット超の飲酒を継続(1.40、1.02-1.93)。
次に心血管代謝疾患の影響を分析した。1991/93年に心血管代謝疾患でも認知症でもなかった8749人を追跡したところ、2985人が心血管代謝疾患を発症し、うち208人が認知症も発症していた。その間に心血管代謝疾患を発症しなかった人々では、認知症発症は163人だった。1-14ユニットのグループを基準にした非飲酒者の認知症のハザード比は、心血管代謝疾患を発症しなかった人に限定すると1.33(0.88-2.02)と有意差を示さなくなった。従って、中年期に非飲酒者だった人々の認知症リスクの上昇は、追跡期間中の心血管代謝疾患発症により部分的に説明されると考えられた。一方、14ユニット超のグループでは、心血管代謝疾患を発症しなかった人に限定してもハザード比1.28(0.85-1.92)で、心血管代謝疾患の影響が見られなかった。
これらの結果から著者らは、認知症リスクは中年期に飲酒しなかった人と、週に14ユニットを超える飲酒量の人が高かった。ガイドラインの有害な飲酒量の閾値を14ユニット/週より高い値に設定している国は、高齢期の認知的な健康を促進するために数値を見直すよう提案している。