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糖尿病治療薬のカナグリフロジンが2型糖尿病の心血管リスクを低下

こんにちは、今日は糖尿病の治療薬が心血管疾患に対して良い影響をもたらすという文献を紹介します。2014年に登場したSGLT2阻害薬は尿に糖を排出することによって血糖値を下げる薬です。今回の論文に登場するSGLT2阻害薬であるカナグリフロジンは血糖降下作用と独立して心臓や腎臓などの合併症の予防効果も有することから糖尿病専門医のみでなく循環器内科や腎臓内科の先生方にもよく使用されています。

論文の内容は以下を参考にしてください。
Canagliflozin and heart failure in type 2 diabetes mellitus: results from the CANVAS Program.
Radholm K, et al.  Circulation. 2018:138:458-68.

2型糖尿病で、心不全(HF)の既往例と非既往例を対象に、CANVAS Programのデータを用いて、カナグリフロジンの心血管リスクに対する効果と安全性が検討された。解析の結果、カナグリフロジンは、HFの既往の有無にかかわらず、心血管死またはHFによる入院のリスクを低下させたが、このベネフィットはHFの非既往例よりも既往例で大きい可能性があることも示された。

 2型糖尿病は、HFをはじめとする心血管疾患および腎疾患の高リスクと関連する。これまでの研究では、HFの2型糖尿病患者は、どちらかの疾患のみの患者よりも死亡アウトカムが不良であることが示されている。一方、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬であるカナグリフロジンは、心血管イベントのリスクを低下させることが示されている。

 今回の解析では、CANVAS Program(Canagliflozin Cardiovascular Assessment Study)の2型糖尿病患者を対象とし、ベースラインの時点でHFの既往歴のある患者(既往例)と既往歴のない患者(非既往例)をはじめとしてベースラインの患者特性による様々なサブグループで、心血管死とHFに対するカナグリフロジンの効果と安全性を検討した。

 CANVAS Programは、CANVAS試験とCANVAS-Renal試験からなり、30カ国667施設で心血管リスクの高い2型糖尿病患者1万142例が登録され、カナグリフロジン群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。平均追跡期間は188週だった。

 選択基準は、グリコヘモグロビンが7.0%以上10.5%以下、推定糸球体濾過率が30mL/分/1.73m2超、30歳以上で症候性アテローム動脈硬化性心血管疾患の既往歴があるか、50歳以上で心血管疾患のリスク因子が2つ以上認められる患者だった。ニューヨーク心臓協会の心機能分類がIV度のHF患者は除外した。

 主要アウトカムは、心血管死またはHFによる入院の複合アウトカムだった。安全性アウトカムは、重篤な有害イベント、治療中止に至る有害イベント、切断、骨折、浸透圧利尿、体液減少に関連する有害イベントだった。

 患者の平均年齢は63.3歳、35.8%が女性、糖尿病の平均罹病期間は13.5年、65.6%に心血管疾患の既往歴が認められた。HFの既往例1461例(14.4%)では、女性、白人種、高血圧患者、心血管疾患の既往歴のある患者が多かった(P<0.001)。この既往例の多くは、HFの管理のためにレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系遮断薬、利尿薬、β遮断薬を服用していた(P<0.001)。既往例では、203件の心血管死またはHFによる入院イベントが発生した。非既往例では449件のイベントが発生した。

 解析の結果、患者全体で心血管死またはHFによる入院のリスクは、プラセボよりもカナグリフロジンの方が有意に低かった(カナグリフロジン群:16.3例/1000患者・年、プラセボ群20.8例/1000患者・年、ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[95%CI]:0.67-0.91)。致死的なHFまたはHFによる入院でも同様であり(HR:0.70、95%CI:0.55-0.89)、HFによる入院のみでもカナグリフロジン群のリスクが低かった(HR:0.67、95%CI:0.52-0.87)。

 心血管死またはHFによる入院に対するベネフィットは、非既往例よりも(HR:0.87、95%CI:0.72-1.06)、既往例の方が大きいことも示唆された(HR:0.61、95%CI:0.46-0.80、P=0.021)。

 HFの発生率は、年齢、腎機能、他の疾患の既往歴などのベースライン特性によって変動したが、心血管死またはHFによる入院に対するカナグリフロジンの効果は、様々な患者のサブグループ全体でほぼ同程度だった。

 安全性に関しては、プラセボと比較して、カナグリフロジンでは切断、骨折、体液減少のリスク上昇と関連することが示されたが、既往例と非既往例の間で、リスクに差は認められなかった(P>0.160)。浸透圧利尿に関連するイベントの絶対リスク差は、非既往例(130.06/1000患者・年、95%CI:98.02-162.10)よりも既往例(38.45/1000患者・年、95%CI:-37.15~114.05)の方が有意に低かった(P=0.029)。

 著者らは、HFのアウトカムに対するベネフィットが追跡期間の早い段階で現れたことから、体液および血行動態への作用によって主に引き起こされる機序が示唆されること、またHFのリスク低下には、SGLT2阻害薬で達成される腎機能の保護と体液過剰の軽減も関与していると考えられる、と述べている。対照的に、血糖、血圧、肥満に対する作用によって媒介されるSGLT2阻害薬の抗動脈硬化作用は、本研究で認められた早期かつ大きなベネフィットにおいて主要な役割を果たしている可能性は低いだろう、と著者らは考察している。

 結論として、心血管疾患のリスクの高い2型糖尿病患者で、カナグリフロジンは、HFの併用治療に加えて、様々な患者のサブグループで一貫して心血管死またはHFによる入院のリスクを低下させた。このベネフィットは、HFの非既往例よりも既往例で大きい可能性がある。