こんにちは、本日は食事に関する文献を紹介します。大豆は健康食品としてよく知られていますが、今回の論文は特に大豆発酵食品(味噌や納豆)を多く摂取したほうがよいといった内容になっています。
Association of soy and fermented soy product intake with total and cause specific mortality: prospective cohort study
Katagiri R et al. BMJ 2020;368:m34
国立がん研究センターの片桐諒子氏らは、各種大豆製品の摂取量が総死亡率や死因別死亡率に影響を与えるかどうかを検討する住民ベースのコホート研究を行い、大豆発酵食品の摂取量が最も多かったグループは、最も少なかったグループに比べ総死亡率が低く、納豆の摂取量が多いと心血管死亡率が低かったと報告した。
これまでの研究で、大豆発酵食品の摂取が高血圧リスクを低下させ、心血管死亡率の減少に関連するという報告がある。しかし、大豆製品の総摂取量と総死亡率を調べた研究の結果には、食い違いが見られる。そこで著者らは、日本各地の地域住民約10万人の生活習慣を調査して、長期間追跡するコホート研究「The Japan Public Health Centre-based Prospective(JPHC)Study」のデータを利用して、大豆を用いた各種の食品摂取量とそれらの総摂取量が死亡率に影響を与えているかどうかを調べることにした。
JPHCは2つのコホートで構成されている。第1コホートは全国5カ所の保健所(岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区)管内の45~64歳の住民を対象に、1990年に調査を開始した。第2コホートは6カ所の保健所(茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田)管内の45~74歳の住民を対象に、1993年に調査を開始した。それ以後は5年ごとに質問票を用いた生活習慣調査を継続し、参加者の死亡、海外への移住、15年後調査の追跡終了日のいずれかまで追跡を継続する。この研究では、2つのコホートのベースラインと5年後の生活習慣調査データを利用することにした。
食物摂取頻度調査データの中から大豆製品(豆腐、ゆし豆腐、高野豆腐、油揚げ、納豆、豆乳、味噌)の総摂取量と、発酵性大豆食品(納豆と味噌)、非発酵性大豆食品(豆腐、ゆし豆腐、高野豆腐、油揚げ、豆乳、大豆)の摂取量を抽出、さらに、納豆、味噌、豆腐のそれぞれの摂取量も計算した。納豆以外の製品は、摂取量に基づいて参加者を五分位群に分け、最低摂取量群を基準として最高摂取量群のリスクを比較することにした。納豆だけは男女ともに1万2000人超が食べないと回答したため、それ以外の人を四分位群に分けて、食べない人と最高摂取量群を比較することにした。
大豆製品の総摂取量は、最低五分位群が1日当たり53.2g未満、最高五分位群が141.3g超だった。納豆では最低五分位群が1日当たり0g、最高五分位群が26.2g超、味噌では最低五分位群が1日当たり7.7g未満、最高五分位群31.1g超、豆腐では最低五分位群が1日当たり16.4g未満、最高五分位群が64.2g超だった。
主要評価項目は、総死亡率と日本の死因別死亡率のトップ5(癌、心血管疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患、外傷)とした。死亡と死因に関する情報は、住民登録と死亡診断書から得た。大豆製品摂取量以外の共変数は、BMI、喫煙、飲酒、運動やスポーツ、糖尿病歴と薬、降圧薬、コーヒーやお茶の摂取量、健康診断のデータ、女性の閉経、全エネルギー摂取量、野菜・果物・魚・肉の摂取量とした。
JPHCコホート全体では10万3472人が参加していた。このうち既に癌、心筋梗塞、脳卒中の病歴がある人と、食事の量が極端に少ないか多い2.5パーセンタイルの人を除く、9万2915人(男性4万2750人と女性5万165人)を分析対象とした。平均値で14.8年の追跡期間中に、1万3303人(男性8370人、女性4933人)が死亡していた。
大豆製品の総摂取量と総死亡率に関連は見られなかった。最低摂取量群を基準にした最高摂取量群のハザード比は、交絡因子を補正すると男性では0.98(95%信頼区間0.91-1.06)、女性では0.98(0.89-1.08)だった。一方、大豆発酵食品では交絡因子補正後のハザード比は0.90(0.83-0.97)、女性が0.89(0.80-0.98)で、大豆発酵食品を多く食べる人は総死亡リスクが有意に低かった。非発酵性の大豆製品では、男性のハザード比は1.01(0.94-1.09)、女性のハザード比は1.00(0.92-1.10)でリスク低下は見られなかった。
納豆、味噌、豆腐について食品別の摂取量と総死亡率の関係を調べたが、男性では交絡因子を補正すると有意な関連はなくなった。しかし、女性では納豆の摂取量が多い群のハザード比が0.84(0.76-0.93)、味噌の摂取量が多い群のハザード比0.89(0.81-0.97)で、総死亡率の減少が見られた。
次に死因別の死亡率と大豆製品の摂取量の関係を調べた。交絡因子補正後に有意な死亡率低下が見られた組み合わせは、納豆と心血管疾患で、男性のハザード比は0.76(0.65-0.90)、女性のハザード比は0.79(0.65-0.95)だった。大豆発酵食品と心血管疾患の組み合わせでは、男性のハザード比は0.82(0.70-0.97)だったが、女性では0.89(0.73-1.07)で有意ではなかった。一方、納豆と脳血管疾患の組み合わせは、女性ではハザード比0.67(0.50-0.89)だったが、男性では0.83(0.65-1.07)で有意ではなかった。癌と外傷については、死亡率減少につながる大豆製品の組み合わせはなかった。
これらの結果から著者らは、大豆発酵食品の摂取量が多いことと死亡率の減少に有意な関連が見られたが、大豆製品全体の総摂取量と死亡率では関連が見られなかったと結論している。なお、補正しきれない交絡因子が存在する可能性があるため、データの解釈は注意深く行う必要があるとも指摘している。