こんにちは、今回は地中海食に関する文献を紹介します。1950年頃から地中海食が健康に良いとの報告がされ最近では健康食の代名詞のように言われています。地中海食の摂取によって心血管疾患の従来の危険因子(収縮期血圧、LDLコレステロール、HbA1cなど)は変化がないものの、炎症マーカーや糖代謝・脂質代謝の詳細なマーカーが改善することによって心血管疾患のリスクが減少すると結論づけています。普段の血液検査では、その良い効果が分かりにくいかもしれませんが地中海食を食習慣に取り入れたいですね。
※地中海食とは、ギリシャやスペイン、イタリア、エジプトなどの地中海沿岸の国々で食されている伝統的な食事様式です。次のような特徴を備えている食事が地中海食とされています。
・果物、野菜、パンやその他の穀物食品(ほとんどが未精製)、豆類、種実類といった植物性食品が豊富
・加工食品は最小限にとどめ、その地域で生産された新鮮な旬の食材を使う
・日常のデザートは新鮮な果物とし、ナッツやオリーブオイルを使ったスイーツや砂糖
・はちみつを多く含むスイーツはお祝いのときのみにする
・油脂類の主な供給源としてオリーブオイルを使う
・魚介類を適度に摂る
・乳製品(主にチーズやヨーグルト)は少量~適量を摂る
・卵の摂取量は週に4個未満
・赤身肉の摂取頻度や摂取量が低い
・ワインは食事のときにだけ、少量~適量を飲む
地中海沿岸地域では伝統的に赤身肉を食べる頻度が低く、地中海食は動物性たんぱく質が少なめです。その一方、オリーブオイルや種実類が多く用いられるため、食事全体の脂質量は多めという特徴があります。ただ、脂質の主な供給源であるオリーブオイルには抗酸化作用のあるオレイン酸が多く含まれており、脂質含有量が高くても地中海食は健康的な食事とされています
今回の論文の概要は以下を参考にしてください。
Assessment of Risk Factors and Biomarkers Associated With Risk of Cardiovascular Disease Among Women Consuming a Mediterranean Diet
S Ahmad et al.
地中海食の遵守度が高い人では、心血管疾患(CVD)リスクが低いことは示されていたが、その分子的な機序は明らかではなかった。スウェーデンUppsala大学のShafqat Ahmad氏らは、Women’s Health Studyのデータを用いて地中海食がCVDリスクを減らす要因について分析し、リスク減少の一部は炎症マーカー、グルコース代謝とインスリン抵抗性などの改善により説明できると報告した。
地中海食がCVDリスクを減らすことを報告したのは主に欧州で行われた臨床試験で、米国ではランダム化試験が行われていない。米国人の母集団を対象にした観察研究では、地中海食の摂取率が高い上位20%のCVDリスクが、4年間の追跡で9%減少していた。そこで著者らは、10年を超える長期追跡でのリスク減少と、それに寄与する要因を調べるためにWomen’s Health Studyのデータを分析することにした。
Women’s Health Studyは、ベースラインでCVDではない、45歳以上の女性の医療従事者3万9876人を登録し、低用量アスピリンまたはビタミンEにランダム割り付けして、平均で11.6年(最長12年)追跡した試験だ。参加者のうち2万8345人はベースラインで血液標本を採取し、各種の検査を行っている。この研究では、血液検査と食物摂取頻度調査のデータが揃っている2万5994人を対象とした。ベースラインで健康だった参加者から、人口統計学的情報(高血圧歴、閉経後のホルモン補充療法歴、喫煙歴、運動習慣、飲酒習慣、若年性心筋梗塞の家族歴、体重と身長、血圧など)を収集した。
地中海食の遵守度は0~9までの10段階でスコア化した。131種類の食品の摂取について尋ねた半定量式食物摂取頻度調査結果から、ポテトを除く野菜、果物、ナッツ、全粒穀物、豆類、魚の摂取量と、飽和脂肪酸に対する一価不飽和脂肪酸の比が、調査対象となった集団の中央値より大きかった場合にそれぞれ1ポイントを加算した。赤身肉と加工肉の摂取については、集団の中央値以下なら1ポイント加算し、飲酒量が5~15g/日の範囲なら1ポイント加算した。総スコアに基づいて、対象者を3群、すなわち遵守度低(スコア0~3)、遵守度中(スコア4~5)、遵守度高(スコア6~9)に層別化した。
主要評価項目はCVDイベントの発生とし、初回の心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術、心血管死亡と規定した。今回の分析では、脂質、リポ蛋白質、アポリポ蛋白質、炎症、グルコース代謝、インスリン抵抗性、分岐鎖アミノ酸(BACC)、低分子代謝産物、臨床因子などといった、40種類のバイオマーカーが、地中海食の利益を媒介するかどうかを検討した。遵守度低のグループを基準とし、遵守度中や遵守度高グループのCVDイベントのハザード比を算出し、共変数を補正した後、ハザード比に与える影響が大きい要因を検討した。
2万5994人のうち1万140人(39.0%)が遵守度低、9416人(36.2%)が遵守度中、6483人(24.8%)が遵守度高に分類された。追跡期間中に、2万5994人のうち1030人(3.96%)が初回のCVDイベントを経験していた。遵守度低だった女性は428人(4.2%)、中だった女性は356人(3.8%)、高だった女性は246人(3.8%)だった。遵守度低の人々を基準にして、年齢・治療法・総摂取エネルギーで補正したCVDのハザード比は、遵守度中では0.77(95%信頼区間0.67-0.90)、遵守度高では0.72(0.61-0.86)になった。
遵守度が高い女性では、40項目の危険因子やバイオマーカーのプロファイルも総じて良好な傾向を示した。例外の1つは総コレステロール値で、遵守度低群の中央値207.0mg/dL(四分位範囲183.0-234.0)よりも、遵守度高群では209.0mg/dL(184.0-236.0)が高い傾向を示した。収縮期血圧、LDL-c、アポB100、LDL粒子濃度、クレアチニン、HbA1cは、3群間で差が見られなかった。
(基本モデルのHR-各項目を補正したHR)/(基本モデルのHR-1)×100の計算式を用いて各項目の寄与率を計算すると、CVDリスク減少の寄与率が最も大きかったのは、炎症のバイオマーカー(hsCRP、フィブリノーゲン、siCAM-1、アセチル化糖蛋白)で、遵守度低群と比較した遵守度高群のCVDリスク低下の29.2%を説明した。
以下同様に、グルコース代謝とインスリン抵抗性のマーカーが27.9%、BMIが27.3%、血圧は26.6%、従来の脂質検査(総コレステロール、LDL-c、HDL-c、トリグリセリド)は26.0%、HDL関連(粒子サイズと濃度、HDL-c、アポリポ蛋白A1)が24.0%、VLDL関連(トリグリセリド・リッチ・リポタンパク質粒子サイズと濃度、トリグリセリド)が20.8%、と続いた。
逆に寄与率が低かったのは、BCAAの13.6%、LDL関連(LDL粒子サイズと濃度、LDL-c、アポリポ蛋白B-100)の13.0%、アポリポ蛋白関連(リポ蛋白(a)、アポリポ蛋白A1、アポリポ蛋白B100)の6.5%、他の低分子代謝産物(クエン酸、クレアチニン、ホモシステイン)の5.8%などだった。
これらの結果から著者らは、地中海食の遵守度が高いと米国人女性でもCVDの相対リスクがおおよそ4分の3に減少していたが、これまで知られている危険因子ではリスク減少の理由を部分的にしか説明できなかったと結論している。