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中年期の高血圧は認知症と関連する

こんにちは、高齢者人口が増えると認知症の人も増えます。高血圧は以前から認知症の発症に関係することが知られていましたが、認知症発症を予防するためにはどの年齢の人の血圧を正常化したほうが良いかはこれまでよくわかっていませんでした。今回の文献では血圧を140/90以上を高血圧とし、中年期(40-64歳)での血圧を正常化すると認知症予防に効果があることが示されています。高血圧治療は心疾患や脳卒中予防だけでなく将来の認知症発症を防ぐためにも早期治療が必要と思われます。

Association of Midlife to Late-Life Blood Pressure Patterns With Incident Dementia
Walker KA et al.  JAMA. 2019;322(6):535-545. 

中年期の人々の血圧を24年間にわたって定期的に測定し、変化のパターンと認知症発症の関係を検討した米国Johns Hopkins大学のKeenan A. Walker氏らは、中年期からずっと正常血圧を維持していた人々に比べ、中年期からずっと高血圧だった人と、中年期は高血圧で高齢期には低血圧になっていた人の認知症発症リスクは高かったと報告した。

 中年期の高血圧は、その後の認知機能の低下と認知症の発症に関係することが示唆されている。また、一定の条件下では、低血圧も同様のリスク上昇をもたらすことが示唆されている。ゆえに血圧の管理は、認知症の予防策となる可能性がある。しかし、高齢者の認知症リスクを減らすためには、どの年齢の人々の血圧を正常化する戦略が効果的なのかは明らかではなかった。

 著者らは、中年期から高齢期の血圧の変化のパターンと、その後の認知症、軽度認知障害の関係について検討するために、Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)研究のコホートを利用することにした。この研究は現在も継続中で、当初は1987~1989年に米国の4地域(メリーランド州ワシントン郡、ノースカロライナ州フォーサイス郡、ミネソタ州ミネアポリス、ミシシッピ州ジャクソン)の住民に参加を呼びかけ、1万5792人を組み入れてスタートした。参加者は3年ごとに4回健康評価を受け、血圧を測定している。ここまでを中年期の血圧とした。4回目の評価から15年経過した2011~13年に5回目の評価を行い、さらに2016~17年に6回目の評価を行った。5回目と6回目には認知機能評価も行った。

 血圧は、140/90mmHg超を高血圧、90/60mmHg未満を低血圧とした。中年期の高血圧は、1回目から4回目までの受診時に2回連続して高血圧の基準を満たした場合(測定値が高血圧を示した、または降圧薬を使用していた)とした。高齢期の正常血圧、高血圧または低血圧は、5回目の受診時の測定値に基づいて判断した。各回の血圧測定値は、30秒の間隔を空けて2回測定した平均値を採用した。

 血圧の変化のパターンに基づいて、参加者を以下の5群に分類した。「中年期からずっと正常血圧」(833人)、「中年期は正常血圧で高齢期には高血圧」(1559人)、「中年期からずっと高血圧」(1030人)、「中年期は正常血圧で高齢期には低血圧」(927人)、「中年期は高血圧で高齢期には低血圧」(389人)。

 この研究では5回目の評価を受けた人を対象とし、この時点で既に認知症を発症していた人は除外した。主要評価項目は6回目の評価で認知症の発症とし、Functional Activities質問票で5を超える、Clinical Dementia Rating sum of boxesが3を超える、認知機能の少なくとも2分野で正常者の平均値から標準偏差の1.5倍を超える低スコアを満たす場合とした。5回目の評価から6回目の評価までは、年1回の電話調査で参加者に連絡を取った。6回目の評価に参加できなかった人は、電話調査のSix-Item ScreenerとAscertain Dementia 8-Item Informant質問票、病院の入院記録や死亡診断書で認知症を判定した。

 共変数は、性別、人種、学歴、年齢、喫煙習慣、飲酒習慣、BMI、コレステロール値、冠疾患歴、心不全歴、脳卒中歴、糖尿病、APOE遺伝子型などの情報を得た。

 分析対象となった4761人の参加者のうち、59%が女性で、21%が黒人であり、5回目受診時の平均年齢は75歳(範囲は66~90歳)だった。

 5回目の評価後から6回目の評価までの間(平均4.9年)に516人(11%)が認知症を発症していた。100人・年当たりの認知症の発症率は、「中年期からずっと正常血圧」では1.31(95%信頼区間1.00-1.72)で、「中年期は正常血圧で高齢期には高血圧」は1.99(1.69-2.32)、「中年期からずっと高血圧」は2.83(2.40-3.35)、「中年期は正常血圧で高齢期には低血圧」は2.07(1.68-2.54)、「中年期は高血圧で高齢期には低血圧」では4.26(3.40-5.32)になっていた。

 「中年期からずっと正常血圧」だったグループを基準にして、共変数を補正したハザード比を求めると、認知症リスクの上昇が有意だったのは、「中年期からずっと高血圧」ハザード比1.49(1.06-2.08)と、「中年期は高血圧で高齢期には低血圧」ハザード比1.62(1.11-2.37)だった。また、高齢期の血圧にかかわらず、中年期に高血圧であることは、認知症リスクと有意に関係していた。ハザード比は1.41(1.17-1.71)だった。

 5回目の評価時には認知機能は正常で6回目の評価を受けた2584人のうち、435人が6回目の評価で軽度認知障害と判断された。中年期からずっと正常血圧だった人々と比較すると、中年期に高血圧で高齢期に低血圧だった人にのみ、軽度認知障害リスクの有意な上昇が認められた(オッズ比は1.65、1.01-2.69)。

 これらの結果から著者らは、地域住民を長期間追跡したコホートで、正常血圧を維持した人に比べ、中年期からずっと高血圧だった人と、中年期は高血圧で高齢期には低血圧になった人の認知症発症リスクは高かったと結論しています。