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糖尿病治療薬のメトホルミンで認知症リスクが低下する

こんにちは、糖尿病治療薬のメトホルミンは2型糖尿病の治療薬として広く使用されており、神経保護作用があるという研究が以前に報告されています。今回の文献ではメトホルミンによって認知症の発症リスクが低下したと報告しています。認知症のリスクが高いと思われる糖尿病患者さんの治療薬を選択をする際に参考になる内容と思われます。

詳細については以下を参考にしてください。
Metformin use is associated with slowed cognitive decline and reduced incident dementia in older adults with type 2 diabetes: the Sydney Memory and Ageing Study.
Samaras K, et al.  Diabetes Care. 2020:43:2691-2701.

  メトホルミン投与と認知機能低下および認知症発症との関連が前向き観察研究で検討された。メトホルミン服用の糖尿病患者は、メトホルミン非服用患者よりも認知機能の低下が遅く、認知症の発症リスクが低かった。

 2型糖尿病は、認知機能障害および認知症のリスク上昇と関連することが示されている。一方、疫学研究や最近のメタ解析では、メトホルミンは、認知機能障害および認知症の発生率低下と関連することが報告されている。本研究では、Sydney Memory and Ageing Studyのデータを用いて、高齢の2型糖尿病患者でメトホルミン投与が認知機能低下および認知症発症の抑制と関連するか検討した。

 Sydney Memory and Ageing Studyは、認知症ではない高齢(ベースラインの年齢が70~90歳)の地域住民1037人(白人が98%)を対象とした前向き観察研究である。認知症、重大な神経性疾患または精神疾患、進行癌などは除外した。追跡期間は6年間。2年ごとに神経心理学的検査で認知機能(実行機能、記憶、注意、処理速度、言語、視空間認知の各領域、全般的認知機能[各領域スコアの平均])を測定した。

 研究参加者を、メトホルミン服用の糖尿病患者(DM+MF群:67例)、メトホルミン非服用の糖尿病患者(DM-noMF群:56例)、非糖尿病者(no-DM群:903例)の3群に分け比較した。

 ベースラインの時点で、DM+MF群67例のうち60%(39例)は、メトホルミン服用年数が5年を超えていた。67例中34例はメトホルミン単剤、33例は他の薬剤と併用しており、最も多い併用薬はスルホニル尿素(70%)だった。DM-noMF群56例のうち34例は食事療法のみだった。

 認知機能低下の解析では線形混合モデル、認知症リスクの解析ではCox回帰生存分析を行った。共変量は、年齢、性別、教育年数、BMI、心疾患、高血圧、脳卒中、喫煙、アポリポ蛋白Eε4遺伝子型保有などだった。

 認知機能に関する解析の結果、3群とも加齢に伴い6年間で認知機能は有意に低下していた。全般的認知機能の低下速度は、DM+MF群とno-DM群では同程度だったが、DM+MF群の低下は、DM-noMF群よりも有意に遅かった(P=0.032)。同様に、実行機能の低下速度もDM+MF群とno-DM群では同程度だったが、DM-noMF群ではDM+MF群よりも有意に速かった(P=0.006)。記憶、言語、注意、処理速度の低下はDM+MF群よりもDM-noMF群の方が速かったが、統計学的に有意ではなかった。

 6年間の観察期間中に認知症を発症したのは91例だった。73例がno-DM群(同群の8.2%)、8例がDM-noMF群(同群の14.5%)、4例がDM+MF群(同群の6%)だった。発症率は、DM+MF群よりもDM-noMF群の方が有意に高かった(オッズ比:5.29、95%信頼区間[95%CI]:1.17-23.88、P=0.05)。Cox回帰モデルで、DM+MF群とDM-noMF群を比較したところ、メトホルミン投与により認知症発症リスクが81%低下していた(ハザード比[HR]:0.19、95%CI:0.04-0.85、P=0.030)。DM-noMF群の認知症発症リスクは、no-DM群より3倍高かった(HR:3.03、95%CI:1.17-7.88、P=0.023)。DM+MF群とno-DM群でリスクに有意差は認められなかった(HR:1.74、95%CI:0.52-5.90)。

 本研究の結果は、メトホルミンの神経保護効果の可能性を支持する先行研究の結果と一致するものである、と著者らは考察で述べている。一方、本研究の限界として、脱落者のベースラインでの認知機能は、非脱落者よりも低く、脱落者には認知症のリスク因子である心疾患および脳卒中患者が多かったことから、生存者バイアスが含まれている可能性があると著者らは指摘している。

 結論として、高齢の2型糖尿病患者におけるメトホルミン投与は、認知機能低下および認知症発症の抑制と関連するといえる。ただし、メトホルミンに認知症または認知機能低下に対する保護作用があるかを検討するためには、糖尿病患者と非糖尿病の高齢者の両者でメトホルミンを対象とした無作為化比較試験を行う必要がある、と著者らは述べている。