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BMIなどの肥満度が高い人は腎機能が低下しやすい

こんにちは、肥満は高血圧や糖尿病、脂質異常症、心疾患などの危険因子になりますが慢性腎臓病の危険因子であることがわかっています。腎機能の低下は進行すると透析などの治療が必要となります。今回の論文ではBMIが高い人ほど腎機能が低下しやすいことが示されており、血圧や血糖管理だけでなく体重の是正が腎機能低下を防止するために重要です。

Adiposity and risk of decline in glomerular filtration rate: meta-analysis of individual participant data in a global consortium
AR Chang et al.  BMJ 2019364

肥満の程度とその後の糸球体濾過率(GFR)の低下の関係を検討する大規模なメタ分析を行った米Kidney Health Research InstituteのAlex R Chang氏らは、BMIが25を超える人々のその後8年間のGFR低下リスクは高く、BMIが大きいほどリスク上昇は傾向を示したと報告した。

 過去50年間に、肥満の有病率は世界的に上昇した。肥満は慢性腎臓病のリスクを高めることが知られているが、機序は明らかではない。複数の住民ベースの研究が、肥満は慢性腎臓病と末期腎不全の危険因子であることを示しているが、報告されていたリスクレベルはさまざまだった。その背景には、対象とした集団の違いや、行われた年代、追跡期間の違い、さらに末期腎不全の定義の違いなどがあると考えられた。

 著者らは、Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium(CKD-PC)に参加している40カ国の研究者たちが、eGFRと臨床アウトカムの関係を調べている70以上のコホートの中から、末期腎疾患の発症率、eGFRの減少率、総死亡率などのデータを追跡している研究に参加を呼びかけた。コホート参加者の違いにより、一般成人の母集団、心血管のハイリスク集団、慢性腎疾患(CKD)の集団に分けて、行うメタアナリシスを計画した。

 1970~2017年に行われたコホート研究の中から、18歳以上の成人を対象に、eGFRとBMIのデータを記録している研究を選んだところ、一般のコホートが39件、心血管ハイリスクコホートが6件、CKDコホートが18件あった。既に末期腎疾患の既往歴がある人、今回は肥満との関係を調べるためBMIが18.5未満のやせすぎの参加者は分析から除外することにした。またeGFRの評価に必要な血清クレアチニン値の測定を複数回行っていない場合も除外した。BMI以外の体格指数では、ウエスト周囲径とウエスト身長比を調べていた研究が、一般コホートで21件、心血管ハイリスクコホートが3件、CKDコホートが6件あった。

 主要評価項目は、GFRの低下(eGFR が40%以上低下、透析などの腎代替療法の開始、eGFRが10mL/分/1.73m2未満のいずれか最初に起きたイベント)とした。2次評価項目は、腎代替療法開始イベントと総死亡率に設定した。共変数には自己申告による年齢、性別、人種、喫煙状態に加え、糖尿病や高血圧の有無、心筋梗塞、冠動脈再形成術、脳卒中、心不全の病歴を調べた。

 39件の一般母集団コホートには、合計で545万9014人が参加していた。同様に6件の心血管ハイリスクコホートには8万4417人、18件のCKDコホートには9万1607人が参加していた。全体的に、BMIが高いカテゴリーほど、黒人の比率が高く、高血圧・糖尿病・アルブミン尿の有病率が高く、現在喫煙者の割合が少なかった。

 平均8年間(範囲は6~35年)の追跡で、一般コホートでは24万6607人(5.6%)がGFRの低下イベントを起こしていた。腎代替療法は1万8118人(0.4%)、死亡数は78万2329人だった。心血管ハイリスクコホートでは平均は6年(2~12年)の追跡で、3344人(6.0%)がGFR低下イベントが起こり、1684人(2.0%)が腎代替療法、1万4646人(17.3%)が死亡していた。CKDコホートでは、平均4年(2~16年)の追跡で、eGFRの低下イベントは1万680人(13.6%)、腎代替療法は8942人(9.8%)、1万7322人(18.9%)が死亡していた。

 BMIが25を超える肥満は、一般コホートのGFR低下イベントの発生に関連していた。BMI25を基準とし、年齢、性別、人種、喫煙習慣で補正したGFR低下イベントのハザード比は、BMIが30のグループで1.18(95%信頼区間1.09-1.27)、35のグループで1.69(1.51-1.89)、40のグループは2.02(1.80-2.27)になった。なお、BMIが20のグループでは、ハザード比0.92(0.79-1.07)でリスクは増加していなかった。

 収縮期血圧、糖尿病、総コレステロール、心血管疾患の病歴をさらに補正に加えた場合、BMIが30、35、40のグループではそれぞれのハザード比は1.03(0.95-1.11)、1.28(1.14-1.44)、1.46(1.28-1.67)だった。

 サブグループ解析では、概ねどのグループもBMIが高いほどGFR低下リスクが大きい傾向を示したが、例外のサブグループがいくつかあった。BMIが25未満でも、男性、糖尿病あり。アルブミン・クレアチニン比(ACR)が300mg/g以上のサブグループでは、GFR低下リスクが上昇していた。

 心血管ハイリスクコホートでは、どのBMIグループもBMIが25のグループに比べ、GFR低下リスクの上昇は有意にならなかった。追跡開始から3年までのイベントを除き、残った2万1212人(25.1%)について調べると、BMI35のグループのGFR低下ハザード比は1.46(1.06-2.02)になった。

 CKDコホートでは、BMIが35のグループのGFR低下のハザード比は1.17(1.04-1.31)で、BMIが20のグループでは1.25(1.07-1.46)と、いずれも有意に高かった。しかし、このプール化ではコホート間の異質性が極めて大きかった

 一般コホートでは、ウエスト周囲径やウエスト身長比とGFR低下の間に、BMIと同様に肥満しているほどリスクが大きい傾向が見られた。これらの関係をグラフにすると、BMIのJ字型よりも、右肩上がりの直線に近い形になった。男性で周囲径92cm、女性では78cmを基準にすると、GFR低下のハザード比は、112cm/98cm群では1.50(1.27-1.76)、82cm/68cm群では0.86(0.71-1.03)だった。同様に、ウェスト身長比が0.5のグループを基準にすると、0.62群のハザード比は1.49(1.25-1.78)で、0.44群では0.97(0.82-1.16)だった。一方、心血管ハイリスクコホートやCKDコホートでは、これらの体格指標とGFR低下の間にBMIのような関連は見られなかった。

 一般コホートでは、BMI、ウエスト周囲径、ウエスト身長比のいずれの指標も、肥満しているほど総死亡率が高くなる傾向が見られた。ただし、やせすぎた人も死亡率が高くなっていたのはBMIだけだった。心血管ハイリスクコホートの総死亡率は、同様の傾向が見られたが、ウエスト身長比の死亡リスク増加は有意ではなかった。CKDコホートでも、肥満しているほど総死亡率が高くなる傾向が見られたが、ウエスト身長比の死亡リスク増加は有意ではなかった。

 これらの結果から著者らは、BMI、ウエスト周囲径、ウエスト身長比で示す肥満度が増加することは、腎機能低下や総死亡率上昇の危険因子になると結論している。