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少量の飲酒は認知機能低下のリスクが低い

こんにちは、本日もアルコール関連の論文を紹介します。大量の飲酒は認知機能低下と関連があることは知られていますが、今回の文献ではまったく飲酒をしない人と多量摂取する人は認知症リスクが高く、一方で少量の飲酒は認知機能低下のリスクを下げることが示されています。

詳しい内容は以下を参考にしてください
Alcohol Consumption and Risk of Dementia and Cognitive Decline Among Older Adults With or Without Mild Cognitive Impairment
Koch M et al.  JAMA Netw Open. 2019;2(9):e1910319. 

米国Harvard公衆衛生大学院のManja Koch氏らは、米国の市中在住の高齢者を対象に、自己申告された飲酒量と認知症の発症、および認知機能の低下の関係を調べる前向きコホート研究を行い、まったく飲酒しない人と大量飲酒者は、少量飲酒者に比べ認知機能スコアが低下しやすく、軽度認知機能障害(MCI)がある患者の大量飲酒は特に影響が大きいことなどを報告した。

 これまでに行われた疫学研究から、全く飲酒しない人に比べ、適度に飲酒する人の心血管疾患リスクや認知症リスクは低いことが示唆されている。しかし、飲酒量や頻度と認知症リスク、アポリポ蛋白Eε4(APOE4)アレルの有無、MCIに対する飲酒の影響などは、多くの観察研究の条件が様々に異なるため、明らかではなかった。

 そこで著者らは、飲酒と認知症の関係を評価し、そこにMCIやAPOE4アレルの影響があるかどうかを検討するコホート研究を計画した。組み入れ対象にしたのは、イチョウ葉サプリメントに認知症の発症率を減らす効果があるかを調べた二重盲検のランダム化比較試験Ginkgo Evaluation of Memory Study(GEMS)に参加した米国の高齢者だ。

 GEMS試験は、2000~2008年に米国の4つの大学医療センターで72歳以上の参加者を募集し、イチョウ葉群とプラセボ群にランダムに割り付け、中央値6年間の追跡で認知症とアルツハイマー病の発症率を比較したものだ。GEMS試験では、イチョウ葉に認知症を減らす効果はないという結論になったが、飲酒量とその後の認知症リスクを精査した情報が得られていたため、今回の研究に利用することにした。

 ベースラインの調査で、ビール、ワイン、蒸留酒などの飲酒量を自己申告してもらい、1週間当たりの飲酒量で参加者を次の5群に分類した。1)まったく飲まない、2)週1杯未満、3)週1~7杯、4)週7~14杯、5)週14杯超。このうち週1杯未満の人を基準にして、認知症リスクを比較することにした。追跡期間中は6カ月ごとに、Modified Mini-Mental State(3MSE)やClinical Dementia Ratingスケールを用いて認知機能を評価した。2004年8月からは、Alzheimer’s Disease Assessment Scale cognitive portion(ADAS-Cog)も合わせて調べていた。

 主要評価項目は、認知症発症リスクと、3MSEスコアの経時的な変化とした。共変数は、年齢、性別、学歴、人種、身長、体重、血圧、HDLコレステロールとapoA1レベル、喫煙状態、心疾患と糖尿病の病歴、処方薬とOTC薬、血液標本からDNAを調べたAPOE4遺伝子型、社会交流の頻度、などとした。

 3069人のGEMS試験参加者のうち、飲酒量の情報が不十分だった48人を除き、3021人を分析の対象にした。年齢の中央値は78歳(四分位範囲76~80歳)で、1395人(46.2%)が女性だった。ベースラインで58%が飲酒すると申告した。ベースライン時点で糖尿病やMCIがある人は、まったく飲まないグループの割合が最も高かったが、MCI患者の約45%は現在飲酒者だった。

 中央値6.0年(四分位範囲4.9~6.5年)の追跡で、ベースラインでMCIだった患者の57人(12%)とMCIではなかった患者の320人(13%)が死亡していた。その間に512人が認知症を発症、うち348人がアルツハイマー病(AD)だった。

 ベースラインでMCIではなかった2548人の認知症リスクを、週1杯未満群を基準にして比較すると、どの飲酒量群とも有意差は見られなかった。まったく飲まない群の補正後のハザード比は1.17(95%信頼区間0.84-1.62)だった。同様に週1~7杯群0.88(0.61-1.28)、週7~14杯群0.63(0.38-1.06)、週14杯超群0.91(0.56-1.47)だった。

 ベースラインでMCIだった473人についても、週1杯未満群を基準にして比較すると、まったく飲まない群の補正後のハザード比は0.98(0.62-1.56)、週1~7杯群0.90(0.52-1.57)、週7~14杯群0.93(0.47-1.84)、週14杯超群1.72(0.87-3.40)だった。

 飲酒量と飲酒の頻度を分けて分類したところ、1週間の合計飲酒量は同じくらいでも、毎日ではないが1回に少なくとも2杯以上飲む人と、毎日1杯ずつ飲む人の認知症リスクには差が見られた。ハザード比は0.45(0.23-0.89)で、毎日1杯の人たちのリスクが低かった。

 続いて、アルコール摂取と3MSEスコアに示される認知機能の低下の関係について検討した。ベースラインでMCIがなかった人では、追跡期間中の3MSEスコアは、週1杯未満群を基準にすると、まったく飲まない群で低下していた。補正後の平均差は-0.46点(95%信頼区間-0.87から-0.04点)だった。それ以外のグループでは、平均差は有意な値にならなかった。

 ベースラインでMCIだった患者では、追跡期間中の3MSEスコアは、週1杯未満群に比べ、週14杯超群で有意に低下していた。補正後の平均差は-3.51点(-5.75から-1.27点)だった。

 これらの結果から著者らは、高齢者では、週1杯未満の少量飲酒者に比べると、まったく飲まない人と大量飲酒者には認知機能低下と関連が見られ、特にMCIがある人の大量飲酒は危険が高そうだと結論しています。