ブログ blog

HbA1cや空腹時血糖は糖尿病のスクリーニングには不十分

こんにちは、健康診断などで空腹時血糖やHbA1c値は糖尿病のスクリーニングとして頻用されています。今回の文献では、血糖値やHbA1c値では糖尿病を見逃す可能性があり、耐糖能障害が疑われば現時点では経口ブドウ糖負荷試験を実施したほうがよさそうです。

詳細な内容に関しましては以下を参考にしてください。
Efficacy and effectiveness of screen and treat policies in prevention of type 2 diabetes: systematic review and meta-analysis of screening tests and interventions
Barry E et al. BMJ 2017;356:i6538

HbA1cまたは空腹時血糖を指標として糖尿病前症患者を選出し、介入を実施する戦略の有効性を評価するためにメタアナリシスを実施した英Oxford大学のEleanor Barry氏らは、現時点の基準を用いた場合にはスクリーニングが不正確で、糖尿病患者の減少にはつながらないことを示唆する結果を得た。

 世界の2型糖尿病の有病率は上昇し、現在の患者数は4億2200万人と推定されている。合併症による死者数は2005年から2030年までに倍増すると予想されている。糖尿病患者を減らすための戦略の一つが、スクリーニングと介入だ。しかし、ハイリスク患者を選出するためのスクリーニング法として世界的に認められているものはない。米糖尿病協会(ADA)は、空腹時血糖が5.6~6.9mmol/L(×18の数値が日本でよく使われる血糖値(mg/dL))またはHbA1cが39~47mmol/mol(5.7~6.4%)を糖尿病前症の基準としており、WHOとInternational Expert Committeeは、空腹時血糖が6.0~6.9mmol/L、HbA1cは42~47mmol/mol(6.0~6.4%)を基準として推奨している。

 糖尿病前症に分類される人々を対象とし、生活改善により糖尿病の発症を予防できるかどうかを調べた研究は複数行われているが、一般市民を対象に、糖尿病前症のスクリーニングを行い、ハイリスク者に介入を実施する研究はほとんど行われていなかった。そこで著者らは、糖尿病前症スクリーニングの診断精度と、糖尿病前症患者の2型糖尿病発症予防に用いられる介入(生活改善またはメトホルミン療法)の有効性を評価するために、系統的レビューとメタアナリシスを実施した。

 Medline、PreMedline、Embaseなどから、検査室で測定した空腹時血糖とHbA1c値をスクリーニングに用いて、診断の正確さや糖尿病の有病率を調べた研究を抽出した。また介入研究の方は、18歳以上の糖尿病のリスクが高い人(耐糖能異常、空腹時血糖の異常、HbA1c高値、妊娠糖尿病の既往)を対象に、生活改善とメトホルミンによる介入を対照群と比較している研究を抽出した。メトホルミン以外の治療薬による介入研究、手術を伴う介入研究、小児を対象にした研究、POC検査機器での測定値をもちいた研究は除外した。

 条件を満たしたフルテキストの論文は148件見つかった。このうち83件は検査の正確性に関する研究で、65件は介入研究だった。データの一部が欠如していたものを除く46件を診断の正確さに対するメタアナリシスの対象とし、50件を介入効果のメタアナリシスの対象とした。

 経口ブドウ糖負荷試験を基準とすると、HbA1cを指標とするスクリーニングの糖尿病前症検出の感度は0.49(95%信頼区間0.40-0.58)、特異度は0.79(0.73-0.84)で、ROC曲線下面積(AUROC)は0.71だった。感度が低いことは、偽陰性患者が増えることを意味する。そうした患者を除いて、実際に糖尿病前症だった患者の同定における精度を求めると、AUROCは0.59になった。 

 空腹時血糖を指標とするスクリーニングの感度は0.25(0.19-0.32)、特異度は0.94(0.92-0.96)で、AUROCは0.72になった。実際に糖尿病前症だった患者を同定する精度を求めたところ、AUROCは0.42だった。

 5件の研究が、HbA1c、空腹時血糖、経口ブドウ糖負荷試験の全てを測定して糖尿病前症の有病率を比較していた。3つの指標の一致率は低く、WHOの基準に合わせるとどの値も糖尿病前症として一致した患者は27%だった。一方ADAの基準に合わせると、3つの指標の判定が一致した患者は54%だった。

 次に、介入研究でメタアナリシスの対象として条件を満たしたのは25件で、うち21件は生活改善のみ、2件はメトホルミンのみ、2件は両方について分析していた。対象は、経口ブドウ糖負荷試験により糖尿病リスクが高いと判断された成人または妊娠糖尿病を経験した女性だった。介入研究は不均一性が高く、参加者数(数百~数千人)、介入期間(4週間~6年)、介入の強さなどは研究による差が大きかった。

 6カ月間から6年間の生活改善介入は、2型糖尿病の相対リスクを31%(15-44%)低下させていた。介入なしの対照群では1000人当たり100人の糖尿病が発症するのに対し、生活改善群の糖尿病発症は1000人当たり69人(56-85人)だった。治療必要数は33人(23-67人)だった。介入期間が3~6年の場合は、相対リスクの低下は37%(28-46%)で、治療必要数は12人(10-15人)だった。

 メトホルミン療法は、糖尿病の相対リスクを26%(16-35)低下させていた。メトホルミン群の糖尿病発症者は1000人当たり218人(192-248人)で、対照群は1000人当たり295人だった。治療必要数は14人(10-22人)だった。

 これらの結果から著者らは、HbA1cは糖尿病前症の検出感度も特異度も高くなく、空腹時血糖値は特異度は高いものの感度が低かった。現段階では、スクリーニングと介入のみからなる戦略では、2型糖尿病患者の増加を防ぐ効果は期待できないと結論しています。