こんにちは、本日は運動に関しての文献を紹介します。適度な運動は健康に良いですが、習慣がないとなかなか運動をはじめるきっかけがみつからないといった方も多いと思います。今回の論文は若い頃に特に運動を行っていない人でも運動を始めることによって健康に良い影響を与え死亡率低下にもつながるといった内容になっています。”思い立ったら吉日”で運動をはじめてみましょう。
論文の内容は以下を参考にしてください。
Physical activity trajectories and mortality: population based cohort study
Mok A et al. BMJ 2019;365:l2323
運動は総死亡、心血管疾患、癌のリスク低下に関係することが示されている。しかし、多くの研究では、ベースラインの運動量とアウトカムの関係を調べており、その後の生活習慣の変化を反映しにくい。英国Cambridge大学のAlexander Mok氏らは、中高年者の運動習慣の変化が総死亡、心血管死亡、癌死亡に及ぼす影響を評価する住民ベースのコホート研究を実施して、ベースラインの運動量にかかわらず、中年期以降の運動習慣は死亡率減少効果をもたらしていたと報告した。
運動習慣や運動量は時間経過と共に変化することが多く、また食事の質やBMIなどの要因も長期的には変動し得る。著者らは、運動の健康への利益を明らかにするためには、そうした変化を考慮した分析が必要だと考え、ベースラインとその後の運動習慣の変化と、総死亡、心血管死亡、癌死亡の関係を評価するための住民ベースのコホート研究を実施することにした。
対象は、European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition-Norfolk(EPIC-Norfolk)コホート研究に参加した人だ。この研究は、1993~1997年に英国Norfolk群の40~79歳の地域住民から参加者を募集して、2万5639人の健康状態と生活習慣などをベースラインと平均1.7年後、3.6年後、7.6年後に評価を行い、危険因子を調べていた。今回の研究では、ベースラインと3回目の評価時点の運動量が記録されていた1万4599人を対象に、仕事と余暇での身体活動量とその変化を調べ、2016年まで追跡して死亡率などのアウトカムを調べることにした。
運動習慣の評価は質問表を用いて行った。職業上の身体活動レベル(非雇用、事務職、立ち仕事、身体作業、重労働の5段階)と、夏と冬に分けた余暇に行うスポーツや運動の種類と1週間当たりの実施時間(なし、0.1~3.5時間、3.6~7時間、7時間超)を調べた。回答に基づいて1人1人のPAEE(Physical activity energy expenditure)を推定した。PAEEは心拍数モニターを行って運動強度を補正した。非雇用または事務職で、余暇に運動しない人を0kJ/kg/日とし、職業上の身体活動と余暇での運動を合わせた値を算出した。計算式はPAEE=0(デスクワークや仕事なし)+5.61(立ち仕事)+7.63(肉体労働)+0(余暇運動なし)+3.59(余暇の運動0.1~3.5時間)+7.17(余暇の運動3.6~7時間)+11.26(余暇の運動7時間超)とした。
運動習慣の変化は、参加者のベースラインと3回目のPAEEを比較して、1年当たりの変化量ΔPAEEkJ/kg/日/年を調べ、運動量が減った人、変わらない人、増えていた人に分類した。
主要評価項目は、総死亡率、心血管死亡率、癌死亡率とした。ライフスタイルと危険因子の調査は、ベースラインと3.6年後の2回目の評価データを用いた。年齢、身長、体重、血圧、食習慣、飲酒習慣、喫煙習慣、運動習慣、社会的地位、学歴、病歴などの情報を調べ、共変数を補正することにした。
分析対象となった1万4599人のベースラインの平均年齢は58.0歳だった。EPIC-Norfolk研究の3回目の調査から中央値12.5年、延べ17万1277人・年の追跡中に、3148人が死亡していた。このうち950人が心血管死亡、1091人が癌死亡だった。ベースラインから3回目の評価までに、参加者のBMIの平均値は26.1kg/m2から26.7kg/m2に増加し、PAEEの平均値は5.9kJ/kg/日から4.9kJ/kg/日に減少していた。
全ての共変数を補正したモデルで、ΔPAEEが1kJ/kg/日/年増加当たりに換算した総死亡率のハザード比は0.70(95%信頼区間0.64-0.78)、心血管死亡率は0.69(0.57-0.83)、癌死亡率は0.83(0.70-0.98)だった。Δ1kJ/kg/日/年の増加は、ベースラインでは運動をしていなかった人が、5年間掛けて徐々に運動量を増やし、WHOが推奨する最低限の運動量(中強度の運動を週に150分)を満たせるようになった場合の変化に相当する。
ΔPAEEの増加は、ベースラインのPAEEとは独立して、死亡率の減少に関連していた。単回の測定値を基に死亡率減少効果を比較すると、ベースラインの運動量が10kJ/kg/日違うとハザード比は0.87(0.80-0.94)と13%の死亡リスク減少だったが、3回目の調査の運動量が10kJ/kg/日違うとハザード比は0.68(0.62-0.75)と32%のリスク減少を示した。
年齢(65歳未満か65歳以上か)、性別、BMI、心血管疾患歴および癌歴で対象者を層別化し分析しても、ベースラインのPAEEやΔPAEEと死亡率減少の間には、ほぼ一貫した結果が見られた。ただし、肥満の人々では、ベースラインのPAEEとΔPAEEのいずれについても、心血管死亡率や癌死亡率の減少は有意ではなくなった。
次にベースラインの運動強度で、低運動群(0kJ/kg/日)、中運動群(0<PAEE<8.4kJ/kg/日)、高運動群(PAEE≧8.4kJ/kg/日)の3群に分類し、ΔPAEEの減少・維持・増加と組み合わせて分析した。低運動群でΔPAEEもそのままだった人たちを基準にすると、低運動群でもΔPAEEが増えた人の総死亡率のハザード比は0.76(0.65-0.88)になり、リスクが減少していた。中運動群では、ΔPAEEを維持した人も増加した人も死亡リスクが減少していたが、ΔPAEEが減少した人はハザード比0.90(0.81-1.00)で有意な減少ではなくなった。高運動群でΔPAEEも増加した人は最もリスクが減少しておりハザード比は0.58(0.43-0.78)だった。高運動群ではΔPAEEが減少した人でもハザード比は0.80(0.71-0.91)で、死亡リスクが減少していた。
これらの結果から著者らは、心血管疾患や癌の病歴がある人を含めても、中高年の人々が運動量を増やすと死亡リスクが減少し、この効果は過去の運動習慣や危険因子に関わらず得られるため、中高年者の習慣的な運動は、住民の健康に大きな影響を及ぼすと結論している。