
産後のやる気が出ない・体重が戻らないとき、寒がりや便秘があれば病気の可能性も確かめましょう
産後にやる気が出ず体重も戻らないのは、ホルモンの変化や寝不足だけでなく、甲状腺の不調や産後うつが関係していることもあります。 寒がりや便秘、動悸などが重なるときは、産後のよくある経過と決めつけずに、一度確かめてみると判断の助けになります。この記事では、症状の組み合わせから受診を考える目安や、むりな減量を避ける考え方、相談先の選び方をまとめました。
この記事の要点まとめ
- 産後にやる気が出ない、体重がもとに戻らないといった変化には、ホルモンの変わり方や寝不足だけでなく、甲状腺の不調や産後うつがかかわることもあります。
- 寒がり・便秘・むくみ・動悸や、2週間以上続く気分の落ち込みがあれば、症状を整理して医療機関へ相談しましょう。
- 授乳中の極端な食事制限は控え、血液検査や超音波検査で体の状態を確かめ、必要に応じて経過観察や治療を検討します。
産後のやる気が出ない・体重が戻らない理由はホルモン変化だけで決めない
産後の体調変化は出産からの時期によって背景が異なり、数か月が過ぎても続く不調はホルモン変動以外の原因も視野に入れます。
ホルモン変動が大きい産後1〜3か月と、生後7か月の不調は同じではない
妊娠中に大きく増えたエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンは、出産を経て、授乳の時期にかけて急に減っていきます1。また、妊娠中から産後にかけては物忘れや集中しにくさ(いわゆるマミーブレイン)を感じる方もいますが、それを自分の性格のせいにする必要はありません。
しかし、生後半年や7か月を過ぎても強い意欲低下や体重の停滞が続いている場合、「まだ産後のホルモン変化のせい」と待ち続けるだけでは原因を見落とすことがあります。
夜間授乳による睡眠不足と体力の落ち込みが意欲と体重に与える影響
夜の授乳で眠りがとぎれとぎれになると、気分の落ち込みや不安が強まりやすく、眠る時間が短いほど産後の体重が戻りにくい傾向があります。加えて、育児が中心の生活で筋力や基礎代謝が落ちることや、体を動かす機会が減ることも、気持ちの切りかえにくさや体重の変化に影響しうる要因です。
ただし、睡眠不足や運動不足で説明できるのは体調変化の一部です。それだけで強い寒がりや頑固な便秘、むくみといった身体の症状まで説明しきれない場合は、別の視点から体調を確認する必要があります。
産後の疲れと思っていた不調でも、甲状腺を確認することがある
産後の疲れや寝不足と思っていた不調のなかに、甲状腺の病気がかくれていることがあります。 当院では、出産のあとに起こることが少なくない「無痛性甲状腺炎」について、あらわれている症状や血液の検査、超音波(エコー)検査などで診断しています。
無痛性甲状腺炎は痛みを伴わず、動悸や体重減少、だるさなど不定愁訴のような症状が多いため、産後に発症した際には産後うつなど別の原因と受け取られてしまうケースが珍しくありません。当院では、自然に治る場合がある一方で、つらい症状がある方には治療を行っています。
症状だけで自己判断せず、まずは検査で体の状態を捉えることが出発点になります。産後の不調でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
症状の組み合わせと続く期間で考える、受診を検討したい目安

受診を考える際は、体重の増減だけでなく、寒がりや動悸などの身体症状、気分の落ち込みが続く期間を組み合わせて整理します。
寒がり・便秘・むくみ・動悸が重なるときの見分け表
意欲の低下にどのような身体症状が重なっているかによって、考えられる状態や相談先が異なります。受診時に医師へ伝える内容を整理するための目安として、以下の表を確認してみてください。
| 考えられる状態 | 気分・意欲の変化 | 重なりやすい身体の症状 | 体重の変化 | 主な相談先 |
|---|---|---|---|---|
| 産後の回復過程・睡眠不足 | 疲れによる意欲低下、日中の眠気 | 寝不足感、肩こり、体力低下 | 徐々に戻る、または停滞 | 健診先、自治体の窓口 |
| 甲状腺機能の低下(橋本病など) | 無気力、眠気、記憶力の低下 | 寒がり、便秘、むくみ、肌の乾燥、抜け毛 | 食事量が変わらなくても増える・戻らない | 内科、内分泌内科 |
| 甲状腺機能の亢進(バセドウ病・無痛性甲状腺炎など) | イライラ、落ち着かない、倦怠感 | 動悸、手の震え、汗が多い、のぼせ | 食べていても急に減る | 内科、内分泌内科 |
| 産後うつ | 強い落ち込み、興味や喜びの喪失、自分を責める | 不眠、食欲低下、強い疲労感 | 食欲により増減どちらも | 産婦人科、精神科、心療内科 |
| 貧血 | だるさ、集中力の低下 | 立ちくらみ、めまい、息切れ、顔色が悪い | 直接の変化は少ない | 内科、産婦人科 |
この表は自己診断のためではなく、診察で症状の全体像を伝えるための手がかりです。なお、便秘に加えて血便や腹痛、便の性状や排便回数の急な変化があらわれた場合は、甲状腺とは別に消化器の病気も考慮し、早めに医療機関を受診してください2。
気分の落ち込みが2週間以上続くとき、期間を待たず相談したいとき
産後うつは、出産したお母さんの約10人に1人が経験するといわれています3。気分の落ち込みや、何をしても楽しめない状態がほぼ毎日2週間以上続く場合は、医療機関へ相談する目安になります。生後半年や7か月を過ぎてから症状が目立ってくる場合も、相談してかまいません。
また、「自分を傷つけたい気持ちがある」「子どもの世話がまったく手につかない」「食事や睡眠が極端にとれない」といった状態はありませんか。このようなときは、2週間という期間を待たずに、すぐに産婦人科や精神科へ相談してください。甲状腺の不調と気分の症状が重なって現れることもあるため、心と体のどちらか一方に決めつけないことが大切です。
体重の数字だけで判断せず、授乳中に食事を大きく減らさない理由
肥満かどうかはBMI(体格指数)という目安で判断し、体に病気をともなう「肥満症」とは分けて考えます4。産後の体重には、授乳をしているかどうかや眠れているか、ホルモンの状態など、いろいろなことが関わるため、体重の数字だけで体の状態を決めつけないようにしましょう。
授乳はエネルギーを使いますが、その量を体重を減らす目標や、食事を減らす量にそのまま当てはめることはできません。授乳中に食事を極端に減らすと、必要な栄養が不足して疲労や意欲低下をさらに強めてしまう恐れがあります。体重が気になるときは食事を抜くのではなく、体調が許す範囲で日常の軽い身体活動から少しずつ取り入れる考え方が勧められます5。
ポイント
寒がりや便秘、動悸などの身体症状や、2週間以上続く気分の落ち込みがあるときは、無理な食事制限を控え、症状の組み合わせをメモして医療機関へ相談しましょう。
甲状腺の不調が疑われたときの検査と、経過観察か治療かの考え方

甲状腺の不調が疑われる場合、まずは血液検査と超音波検査で現在の状態を捉え、経過観察でよいか治療が必要かを判断します。
甲状腺の検査で何を確認し、どのような場合に治療を考えるか
甲状腺の検査では、ホルモンの数値と、自分の体に向かう抗体(自己抗体)があるかどうか、甲状腺の腫れやしこりがあるかを合わせて確かめます。 当院では、甲状腺の働きが落ちる原因として多い「橋本病」について、血液検査で甲状腺ホルモンが減っていないかと、抗TPO抗体・抗Tg抗体を調べます。超音波検査では、甲状腺の大きさや表面の様子、しこりがないかを確かめています。
当院では、橋本病であっても腫れが小さく甲状腺ホルモン値が正常範囲で症状がなければ治療の必要はなく、定期的な検査で経過をみる方針としています。一方で、甲状腺機能低下症による症状がある場合には、甲状腺ホルモンを補充する薬物療法を行います。なお、これは橋本病に対する方針であり、産後の甲状腺不調すべてに同じ対応が当てはまるわけではありません。
治療が必要なときは、授乳や今後の妊娠予定も伝える
もし検査の結果、治療が必要と判断された場合は、現在の授乳状況や今後の妊娠予定を医師へ伝えておくことが大切です。たとえば甲状腺ホルモンが過剰になる「バセドウ病」と診断された場合、当院では病状に加えて、暮らし方や妊娠・授乳などのライフステージも踏まえます。そのうえで、抗甲状腺薬の内服(薬物療法)、放射性ヨードの内服、手術療法それぞれのメリット・デメリット・リスクをご説明しています。
バセドウ病の治療法には、授乳中に選べるものと選べないものがあります。また抗甲状腺薬では、白血球の一種が大きく減る、肝臓の働きが悪くなる、薬疹が出るといった副作用に気をつける必要があります。
当院では飲み薬による治療を行い、放射性ヨードの治療や手術をのぞまれるときは、連携する高度医療機関へご紹介しています。橋本病でホルモンを補う薬(レボチロキシンなど)を使うときも、自分の判断で薬や授乳をやめず、診察のときにご希望をお伝えください。
検査や治療の目的を確認しながら、次の対応を考える
受診するとすぐに薬を飲み始めなければならないのでは、と戸惑う方もいらっしゃいます。しかし実際には、検査結果によって「今回は治療せず定期的な検査で様子をみる」と判断することも少なくありません。
当院では、治療を始める前だけでなく治療中も、これから自分がどのような検査や治療を行うのかを患者さんに正しく理解していただいてから進める方針をとっています。結果の意味や経過観察を選ぶ理由を一つずつ確認しながら次の対応を考えていきますので、些細な疑問も遠慮なくご質問ください。
産後の不調の相談先の選び方と、清水ヶ岡クリニックでできること
身体の症状が中心か、気分の落ち込みが強いかによって最初の相談先を選び、診察で伝える情報を事前にメモしておくと受診がスムーズです。
内科・産婦人科・精神科のどこへ相談するかと、診察で伝えたいこと
寒がりや便秘、むくみ、動悸、体重の変化といった身体症状が気になるときは、内科や内分泌内科が相談しやすい窓口です。一方で、気分の落ち込みや不安、不眠が強く出ている場合は産婦人科や精神科・心療内科へ相談し、心身の症状が両方あるときはまず通いやすい方へ相談して他科との連携を求めても構いません。
限られた診察時間で状態を伝えるため、以下の項目をスマートフォンのメモなどにまとめておくと役立ちます。
- 出産した時期と、いまの授乳のようす(母乳とミルクのわりあい、夜に授乳する回数)
- 眠りのようす(1日に眠れている時間、夜に起きる回数)
- 気になっている症状と、始まったころ(やる気が出ない、寒がり、便秘、動悸など)
- 体重の変わり方(妊娠前や出産のあとからの移り変わり)
- これからの予定や希望(仕事にもどる時期、授乳を続けたいか、次の妊娠の予定など)
このメモは医師に伝えるだけでなく、家族に今の体調の変化を説明し、家事や育児の分担、受診のための時間を相談する際にもそのまま活用できます。
清水ヶ岡クリニックで行う甲状腺診療と、紹介を検討する場合
名古屋市瑞穂区の当院では、甲状腺の病気に対して院内で血液検査や超音波検査、薬物療法を行っております。一方で、シンチグラフィー(核医学検査)や穿刺吸引細胞診、CT・MRIといった精密検査、または放射性ヨード治療や手術が必要と判断した場合には、連携する高度医療機関へご紹介する体制をとっています。
これらの精密検査や治療はすべての方に必要となるものではなく、医師が症状や検査結果をみて個別に検討する範囲です。なお、甲状腺の血液検査や超音波検査の費用は、受ける検査の項目によって変わります。
子ども連れで相談を考えるときに確認したい来院環境
小さなお子さんを預ける時間が限られ、受診を先延ばしにしてしまう方も少なくありません。当院はキッズスペースとバリアフリー設計を備えており、お子さん連れやベビーカー、車椅子でのご来院を想定した環境を整えています。地下鉄名城線「総合リハビリセンター駅」2番出口から北側へ徒歩4分の場所にあり、専用駐車場と提携駐車場もご用意しています。
ポイント
体調の変化をメモにまとめ、家族と共有したうえで、まずは血液検査などで現在の体の状態を確かめることから始めてみてください。
ご来院の際の予約方法や検査にかかる所要時間など、ご不明な点があれば事前に当院までお問い合わせください。
よくある質問
Q. 産後のホルモンバランスはいつ落ち着きますか?
A. 出産のあと女性ホルモンは大きく変わり、とくに産後1〜3か月ごろは変化が目立ちます。その後は授乳の様子や月経が戻る時期などに合わせて、少しずつ変わっていきます。もし産後半年を過ぎても強いだるさや気分の落ち込み、寒がりなどが続くときは、ホルモンの変化のほかの原因も考えられるため、医師にご相談ください。
Q. 授乳中に痩せないのは、どのホルモンが原因ですか?
A. 特定のホルモン1つだけが原因とは限りません。睡眠不足による食欲や代謝に関わるホルモンの変化、筋力や基礎代謝の低下などが複合的に関わります65。また、甲状腺ホルモンが不足する橋本病などでは、食事量が変わらなくても体重が減りにくくなることがあるため、寒がりやむくみを伴う場合は血液検査での確認が勧められます。
Q. 橋本病と診断された場合、母乳(授乳)は続けられますか?
A. 不足しているホルモンを補う薬(レボチロキシンなど)を飲む場合も、多くの場合、薬を飲みながら授乳を続けられます。薬の量や体調は主治医と確認します。甲状腺ホルモン値が正常で経過観察となった場合は、薬を使わずに様子をみます。お体の状態や薬の量によっても異なるため、授乳中であることを必ず主治医へお伝えください。
Q. 甲状腺の検査結果で「経過観察」と言われたら、通院をやめてもよいですか?
A. 経過観察は「この先なにもしなくてよい」という意味ではありません。いまは治療がいらないものの、あとからホルモンの値が変わったり、腫れが大きくなったりしないかを、決まった間隔で確かめていくための見守りです。自分の判断で通院をやめず、医師と決めた間隔で検査を受け、とちゅうで動悸や強いだるさが出たときは予約の日を待たずに受診してください。
参考文献
1. 女性ホルモンとうまく付き合っていくには?〜増える月経トラブルとその対処法を基礎から知ろう〜 | 健康イベント&コンテンツ | スマート・ライフ・プロジェクト | 健康日本21アクション支援システム Webサイト. https://kennet.mhlw.go.jp/slp/event/womens_health/2021/lecture1.html
2. 国立がん研究センター がん情報サービス. 大腸がん検診について. https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/colon.html
3. Q&A | 働く女性の心とからだの応援サイト. https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/health/q_a.html
4. 厚生労働省. 肥満と肥満症(e-ヘルスネット). https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/metabolic/m-05-009
5. Dipietro L, Evenson KR, Bloodgood B et al. Benefits of Physical Activity during Pregnancy and Postpartum: An Umbrella Review. Medicine and science in sports and exercise. 2019. PMID: 31095086, DOI: 10.1249/MSS.0000000000001941
6. Khan-Afridi Z, Ruchat SM, Jones PAT et al. Impact of sleep on postpartum health outcomes: a systematic review and meta-analysis. British journal of sports medicine. 2025. PMID: 40011016, DOI: 10.1136/bjsports-2024-109604
7. van 't Hof SR, Straathof M, Spalek K et al. Theory of mind during pregnancy and postpartum: A systematic review. Journal of neuroendocrinology. 2023. PMID: 37094082, DOI: 10.1111/jne.13266
1999年 春日井市民病院研修医
2001年 春日井市民病院内科
2005年 名古屋大学大学院医学系研究科
2009年 米国シンシナティ大学留学
2011年 ひまわりクリニック
大雄会ルーセントクリニック
2012年 千秋病院、済衆館病院
2013年 あおい在宅診療所
2016年 公立西知多総合病院 内分泌・代謝内科部長
2018年 独立行政法人地域医療機能推進機構
中京病院内分泌・糖尿病内科診療部長兼
糖尿病センター長
2020年 清水ヶ岡クリニック開院
医学博士
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
日本糖尿病学会専門医
日本医師会認定産業医
【所属学会】
日本内科学会
日本糖尿病学会
日本内分泌学会

