ブログ blog

動脈硬化は朝食をとらない人に多い

みなさん、こんにちは。今回は朝食の摂取と動脈硬化症との関連を示す文献を紹介します。朝食を抜くことは不健康な食事や生活習慣を示すマーカーとなることに加え、従来の動脈硬化のリスク因子と独立して、動脈硬化症の存在と関連することが示されています。

論文:
The Importance of Breakfast in Atherosclerosis Disease: Insights From the PESA Study.
Uzhova I, et al.  J Am Coll Cardiol. 2017 Oct 10;70(15):1833-42.

朝食と動脈硬化症の関係を検討する横断研究の結果、心血管疾患の既往のない中年勤労者において、朝食を抜く群は、朝食を摂取する群と比較して、従来の心血管リスク因子と独立して、非冠動脈性および全身性動脈硬化症の所見が存在するリスクが高かった。

 朝食の摂取有無は、1日のエネルギー摂取量、食事の代謝効率、満腹感や食欲調節に関連することから、心血管の健康に大きな影響を与える生活習慣とされている。朝食を抜くことと糖・脂質代謝マーカーの変動や冠動脈疾患リスクの関係を検討した先行研究は存在するが、無症候性動脈硬化症との関係を検討した研究はなかった。

 今回の横断研究は、スペイン・マドリードの銀行職員を対象に、無症候性のアテローム性動脈硬化症の進展に関係する要因を検討することを目的とした前向き観察研究PESA(Progression of Early Subclinical Atherosclerosis)の一環として実施された。参加を志願した40~54歳の成人の中で、ベースライン時に心血管疾患と慢性腎臓病に罹患しておらず、癌治療中ではなく、BMI 40kg/m2以下などの組み入れ基準を満たした男女約4000例が、過去15日間に摂取した食物の内容と時間帯(朝食、ブランチ、昼食、夕食など)を報告した。

 1日の総エネルギー摂取量に占める朝食のエネルギー摂取量の割合により、参加者を3群に分類した。「高エネルギー朝食群」は朝食からの摂取が20%を超える集団、「低エネルギー朝食群」は5~20%の集団、「朝食抜き群」は5%未満の集団とした。

 アテローム性動脈硬化症の測定については、2次元超音波検査で、両側の頸動脈、腎臓下の腹部大動脈、大腿動脈のプラークの有無を確認した。分類については、無症候性動脈硬化症は、左・右頸動脈、腹部大動脈、左・右大腿動脈のいずれかにおけるプラークの存在、もしくは冠動脈におけるカルシウムの存在(CACスコア>0)が確認された場合、非冠動脈性動脈硬化症は、冠動脈に所見はないがその他の動脈にプラークが確認された場合、全身性動脈硬化症は、上記6カ所(左・右頸動脈、大動脈、左・右大腿動脈、冠動脈)のうち4カ所以上に所見がある場合と定義した。多変量ロジスティック回帰分析を用いて、朝食の摂り方と動脈硬化の関連を検討した。

 参加者4052例の1日平均エネルギー摂取量は2314kcalであり、高エネルギー朝食群1122例(27.7%)、低エネルギー朝食群2812例(69.4%)、朝食抜き群118例(2.9%)だった。朝食抜き群は、朝食をとる2群と比較すると、男性、現在喫煙者が多く、昼食から1日の最大エネルギー量を摂取していた。

 高エネルギー朝食群と低エネルギー朝食群の比較では、低エネルギー朝食群には、男性、低学歴者、現在喫煙者が多かった。栄養成分については、朝食抜き群は、たんぱく質(特に動物性)、食事性コレステロールの摂取が多く、繊維質と炭水化物の摂取は3群中最低で、アルコールや加糖飲料をより多く飲んでいた。高エネルギー朝食群は、炭水化物と繊維質の摂取が有意に高く、果物や野菜、全粒粉、高脂肪の乳製品、菓子をより多く食べる傾向があった。

 高エネルギー朝食群の朝食内容は、コーヒーかオレンジジュース、オリーブオイル付きのトースト、トマト、ハム、生のフルーツ、朝食用シリアル、全粒クッキーまたはペストリーとジャムが多かった。低エネルギー朝食群は、コーヒー、オレンジジュース、生のフルーツ、トースト、クッキー、ペストリーをよく食べていた。朝食抜き群の多くは、コーヒーかオレンジジュースを飲むだけで、朝食にかける時間はわずか5分だった。

 低エネルギー朝食群と高エネルギー朝食群と比較すると、低エネルギー朝食群の方が体重は重く(78.1kg vs. 72.5kg)、血圧は高く(117/73mmHg vs. 114/70mmHg)、空腹時血糖は高く(91.4mg/dl vs. 87.9mg/dl)、CVDリスクスコアが高かった(0.6 vs 0.4)。肥満、メタボリックシンドローム、HDL低値、高血圧についても、低エネルギー朝食群の方が有意に多かった。朝食抜き群は、低エネルギー朝食群よりもさらに心血管リスクが高かった(体重:83kg、血圧:119/75mmHg、空腹時血糖:94.7 mg/dl、CVDリスクスコア:0.85)。

 超音波検査による動脈硬化の測定結果は、無症候性動脈硬化症62.5%、非冠動脈性動脈硬化症60.3%、全身性動脈硬化症13.4%だった。プラークは、大腿動脈(44.2%)と頸動脈(31.5%)に多かった。

 朝食の摂り方で3群に分けた場合、朝食抜き群は高エネルギー朝食群に比べて、非冠動脈性動脈硬化症(オッズ比[OR]:1.55、95%CI:0.97-2.46)、全身性動脈硬化症(OR:2.57、95%CI:1.54-4.31)のリスクが高かった。

 プラークと朝食の関係を検討したところ、高エネルギー朝食群を1とした場合、低エネルギー朝食群と朝食抜き群は、いずれもプラークが存在するリスク(オッズ)が1を超えていた。補正する項目を、年齢、性別、腹囲、高血圧、脂質異常、糖尿病、喫煙、赤身肉の摂取、飲酒、食塩摂取とした場合、腹部大動脈にプラークが存在するORは、低エネルギー朝食群1.17(95%CI:0.98-1.40)、朝食抜き群1.79(95%信頼区間[95%CI]:1.16-2.77)であり、頸動脈プラークついては、低エネルギー朝食群1.21(95%CI:1.03-1.43)、朝食抜き群1.76(95%CI:1.17-2.65)、大腿動脈プラークについては、低エネルギー朝食群1.17(95%CI:1.00-1.37)、朝食抜き群1.72(95%CI:1.11-2.64)だった。

 著者らは、朝食を抜くことは、心血管疾患の症状がない中年集団において、不健康な食事や生活習慣を示すマーカーとして役立ち、従来の心血管リスク因子とは独立して、非冠動脈性および全身性動脈硬化症の存在と関連することが明らかになった、と述べている。冠動脈疾患の一次予防における朝食の重要性からみて、本研究結果は重要であり、生活習慣への介入や公衆衛生対策において、シンプルで有用なメッセージとして使える可能性があると主張している。

 ただし研究の限界として、本研究は横断研究のため、朝食を抜くことで動脈硬化が発生したといった時間的な関係は説明できないとしている。例えば、朝食を抜く群では減量中と申告した者が多かったが、朝食を抜くことが肥満やCVDリスクに影響するというより、肥満者が減量のために朝食を抜くといった逆の関係も排除できない。減量を試みる集団は、体重変動が大きいことが予測され、体重変動と心血管リスクとの関連を明らかにした先行研究もあるが、本研究に追跡データはなく、横断研究ではこの問題を扱うことができないと述べている。