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代謝的に健康であっても肥満は心血管疾患リスクが高い

みなさん、こんにちは。体重多く肥満状態であっても健診で他には何も異常がない方がいます。そうした方は血圧や血糖、コレステロール値がよければ健康上の問題はなさそうに思いがちです。今回紹介する文献によると血圧や血糖、コレステロール値が問題なくても、肥満があれば徐々に代謝異常をきたし心血管疾患のリスクが増えてしまうため生活習慣の改善などにより体重管理を行う必要があるとの内容です。

論文:
Metabolically healthy obesity, transition to metabolic syndrome, and cardiovascular risk.
Mongraw-Chaffin M, et al.   J Am Coll Cardiol. 2018:71:1857-65.

肥満でも、メタボリックシンドローム(MetS)ではない「代謝的に健康な肥満(MHO)」と心血管リスクの関連が、コホート研究のデータを用いて検討された。解析の結果、MHOはMetSを発症する可能性が高く、その場合には心血管リスクが高まることが明らかにされ、代謝的に健康であっても、肥満は心血管疾患リスクを高めることが改めて示された。

 MHO(metabolically healthy obesity)の個人は、「代謝的に不健康な肥満(MUO:metabolically unhealthy obese)」で健康上の問題が発生している個人と比較すると、過剰な体脂肪量は同程度にもかかわらず、代謝プロファイルは比較的好ましい。また、MHOは安定した状態ではなく、MHOの個人の大部分がMUOに移行することを示した先行研究もある。多くの先行研究では、ベースライン時でのMHOを縦断的に追跡することで、心血管疾患(CVD)や死亡リスクとの関連について検討しているが、その結果は一貫していない。エビデンスの蓄積により、代謝的に健康な標準体重(MHN:metabolically healthy normal weight)と比較すると、MHOはリスクが低いとは言えない、というコンセンサスが得られ始めている。だが、多くの疑問が残ったままである。

 そこで本研究では、MESA(Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis)の参加者6809例のデータを用いて、ベースライン時のMHOは一過性であると考え、MetSの発症(MUOへの移行)とMetSの継続期間という観点から、肥満およびMetSとCVD、死亡のリスクとの関連を検証した。

 MESAは、2000年に開始された集団ベースの縦断的コホート研究で、米国の6施設から参加者が登録された。臨床評価は2年ごとに実施され、今回の解析の対象とした評価回数は計5回だった。追跡期間の中央値は12.2年だった。

 ベースラインでの肥満とMetSの状態に基づいて、参加者を4群に層別化した。肥満は、BMIが30kg/m2以上とした。MetSは国際糖尿病連合の統一基準を用いて評価した。4つの群は、(1)MHN群(代謝的に健康な標準体重、BMIが30kg/m2未満、非MetS)、(2)MUN(metabolically unhealthy normal weight群(代謝的に不健康な標準体重、BMIが30kg/m2未満、MetS)、(3)MHO群(代謝的に健康な肥満、BMIが30kg/m2以上、非MetS)、(4)MUO群(代謝的に不健康な肥満、BMIが30kg/m2以上、MetS)だった。

 ベースラインでMetSを評価し、追跡中も全ての評価時点でMetSかどうかを確認した。MetSの継続期間は、追跡中にMetSと判定された回数とした。

 本研究の主要アウトカムは、冠動脈心疾患(致死的および非致死的)、脳卒中(致死的および非致死的)、心不全、CVD(冠動脈心疾患、脳卒中、心不全の複合)、総死亡とした。

 追跡期間中に、CVDイベントは791例、死亡は975例発生した。ベースライン時の評価で層別した4群間で、共変量で補正したCox比例ハザードモデルを用いて解析したところ、基準群としたMHN群と比較して、MetSと診断されたMUN群とMUO群では各アウトカムのリスクが有意に高かったが、MHO群は高くなかった。

 ベースラインでMHOだった参加者のうち、48%(1051例のうち501例)は、追跡中にMetSを発症した。このMUOに移行した参加者は、MHOのままだった参加者やMHN群よりもCVDのリスクが高かった(補正オッズ比[OR]:1.60、95%信頼区間[CI]:1.14-2.25)。冠動脈心疾患、脳卒中、心不全の結果も同様だった。

 死亡リスクに関しては、MHN群を基準群とした場合、MHO群のORは有意ではなく、またMUOに移行した参加者でも有意ではなかった。

 二つの変数の間の因果関係を媒介する変数の影響を検討する媒介分析により、MetSは、追跡中の全ての時点で肥満とCVDの関係の約62%(44~100%)を媒介していることが示された。

 今回の結果は、心血管リスクは、肥満に起因し、肥満の予防はCVDの予防に重要であるという説を十分に支持するものであり、また媒介分析から、肥満がMetSとCVDリスク両者の主要な根本原因である可能性が示された、と著者らは考察で述べている。

 本研究の結果から、MHOは安定した状態ではなく、MetSを発症する可能性があり、CVDリスクと関連することが示された。MHOは、臨床的リスクの低さを示す信頼性の高い指標ではない。そのため、MHOをCVDのリスクが低い集団とみなしてはならず、全ての肥満患者に減量と生活習慣の管理を推奨すべきである、と著者らは結論付けている。