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心疾患の既往のない2型糖尿病患者さんは血圧をより下げたほうがよい

みなさん、こんにちは。今日は血圧に関する文献を紹介します。糖尿病患者さんで高血圧を合併していることが多く国内の高血圧治療ガイドライン2019では血圧の目標値は診察室で130/80未満となっています。今回の論文では収縮期血圧を110~119とより血圧を下げた方が心筋梗塞のリスクが低下するようです。

詳しい内容は以下を参考にしてください
Blood pressure and complications in individuals with type 2 diabetes and no previous cardiovascular disease: national population based cohort study
Eryd SA et al BMJ 2016;354:i4070. 

心血管疾患歴を持たない2型糖尿病患者の大規模コホートで、収縮期血圧(SBP)で参加者を層別化し、心血管リスクについて検討したスウェーデンCentre of Registers Vastra GotalandのSamuel Adamsson Eryd氏らは、SBPが130~139mmHgだった患者を基準にすると110~119mmHgだった患者の心血管イベントリスクが有意に低かったと報告した。

 ESH/ESCやJNC8などの高血圧治療ガイドラインが、糖尿病患者のSBPの目標値を130mmHg未満から140mmHg未満に引き上げた。しかし130mmHg未満を目標とした場合の利益を示したランダム化対照試験のデータがなく、観察研究では、血圧と心血管イベントの関係をグラフにするとJ字カーブとなり、血圧が最も低い患者も心血管リスクが高いことが示唆されていたことを考慮したためとされている。一方スウェーデンでは、過去16年間に糖尿病患者のSBPは15mmHg低下し、並行して死亡リスクの低下も観察されていた。そこで著者らは、2型糖尿病患者のベースラインのSBPと、その後の心血管イベントとの関連を調べる研究を計画した。

 この研究では、スウェーデンの糖尿病登録、病院退院記録、死因登録、処方薬登録のデータを照合して統合した。糖尿病登録は、18歳以上の糖尿病患者の危険因子、合併症と治療法に関する情報を記録している。登録者の数は約30万人で、2015年の時点で同国の2型糖尿病患者の90%をカバーすると推定されている。

 コホートの組み入れ基準は、2006年1月1日から2012年12月31日までに新たに登録された2型糖尿病患者で、SBPが110mmHg以上、糖尿病歴が1年以上あり、年齢が75歳以下、BMIは18以上の条件を満たす患者とした。急性心筋梗塞、脳卒中、冠動脈疾患、心不全、心房細動、末期の腎疾患、壊死による切断、認知症、癌、などの既往歴がある患者は組み入れから除外した。

 参加者は、登録日から最初の心血管イベント、死亡時、追跡終了日の2013年12月31まで、のどれかまで追跡した。主要評価項目は、非致死的またはあらゆる急性心筋梗塞、非致死的またはあらゆる脳卒中、急性心筋梗塞と脳卒中を合わせた複合イベント、非致死的またはあらゆる冠疾患、非致死的心不全、総死亡に設定した。

 条件を満たした18万7106人をベースラインのSBPに基づいてを6群に層別化した。110~119mmHg群が1万2829人、120~129mmHg群が3万6618人、130~139mmHg群は4万9518人、140~149mmHg群は4万3687人、150~159mmHg群は2万1558人、160mmHg以上群は2万2896人だった。使用していた降圧薬は、110-119mmHg群が平均0.7剤、160mmHg以上群は1.6剤だった。

 平均5.0年の追跡期間中に1万2152人(6.5%)が死亡していた。うち3663人(死亡者の30%)が心血管死亡だった。ベースラインの患者特性や処方薬などで補正して、SBPが130~139mmHg群をリファレンスにすると、SBP110~119mmHg群の非致死的急性心筋梗塞のハザード比は0.76(95%信頼区間0.64-0.91)になった。あらゆる急性心筋梗塞(0.85、0.72-0.99)、非致死的心血管疾患(0.82、0.72-0.93)、あらゆる心血管疾患(0.88、0.79-0.99)、非致死的冠疾患(0.88、0.78-0.99)は全て有意差を示した。非致死的脳卒中(0.84、0.70-1.02)、あらゆる脳卒中(0.85、0.71-1.03)、あらゆる冠疾患(0.92、0.83-1.03)にも同様の傾向が見られたが、差は有意ではなかった。

 一方で、心不全(ハザード比1.20、95%信頼区間1.15-1.42)と総死亡(1.28、1.15-1.42)のリスクは110~119mmHg群で有意に高かった。130~139mmHg群の死亡患者2749人と110~119mmHg群の死亡患者684人のベースラインの特性を比較すると、110~119mmHg群には喫煙者が多く(31.8%対26.1%)、ループ利尿薬(20.2%対13.8%)やスピロノラクトン(7.6%対4.4%)を投与された患者が多かったため、ベースラインで心不全のリスクが高かった可能性がある。また、110~119mmHg群は他の血圧群よりも感染症、神経疾患、呼吸器疾患、消化器疾患による死亡率が高かった。

 これらの結果から著者らは、心血管疾患歴のない2型糖尿病患者では、ガイドラインの推奨値よりもSBPが低い方が心血管イベントのリスクが低くなり、SBPが低いことによる死亡率の増加は、降圧治療の影響よりも併存する別の疾患のためだと結論している。