ブログ blog

LDL高値は70~100歳の高齢者でもハイリスク

こんにちは、今日は高脂血症(脂質異常症)についての文献を紹介します。”悪玉コレステロール”のLDLコレステロール値が高いと高齢者では心筋梗塞のリスクが増えるためしっかり管理する必要がありそです。

以下が詳細な研究の内容となります。

Elevated LDL cholesterol and increased risk of myocardial infarction and atherosclerotic cardiovascular disease in individuals aged 70-100 years: a contemporary primary prevention cohort Mortensen MB, et al. Lancet. 2020 Nov 21;396(10263):1644-1652.

デンマークAarhus大学のMartin Bodtker Mortensen氏らは、年齢20~100歳のコペンハーゲン在住の一般市民が参加したCopenhagen General Population Study(CGPS)のデータを利用して、21世紀の同国の住民を対象にLDLコレステロール(LDL-c)と心筋梗塞やアテローム硬化性心疾患との関係を調べたところ、過去の研究とは異なり、70~100歳の高齢者でもLDL-cが高い人の方が発症リスクが高かったと報告した。しかも、脂質降下療法の治療必要数は、高齢者ほど少なかったという。

 過去の研究で、70歳以上の高齢者の場合はLDL-cが高くても、心筋梗塞やアテローム硬化性心血管疾患のリスクは上昇しないという結果が知られている。しかし、これらの研究は、40~50年前に実施されたものが多い。その後に脂質異常症の予防法や治療法は大きく変化し、高齢者の余命も伸びたため、過去の研究データは必ずしも最近の高齢者に当てはまらない可能性がある。そこで著者らは、CGPSに参加した20~100歳の市民を対象にLDL-c値と心筋梗塞、アテローム硬化性心血管疾患の関係を検討することにした。

 CGPSでは、デンマーク国民の年代別人口比率に合わせて参加者を選び、コペンハーゲン在住の一般市民からランダムに選んで招待している。参加者登録は2003~15年に実施した。年齢は20歳から100歳までの範囲で、ベースラインでアテローム硬化性心血管疾患や糖尿病がなく、スタチンを使用していなかった人の中から選び出した。なお、遺伝学的な条件を均一にするため、他地域からの移民ではなくデンマーク系の祖先を持つ人を対象にした。

 参加者はベースラインで診察と検査を受け、喫煙などの生活習慣関連情報を質問票で調べた。LDL-c値は中性脂肪が4.0mmol/L未満の場合はフリードワルドの計算式を用い、中性脂肪がそれより高い場合は直接測定を行った。主要評価項目は心筋梗塞とアテローム硬化性心血管疾患とし、コホート参加者の追跡は、心筋梗塞などのイベント発生、他国への移住、死亡、終了予定日(2018年12月7日)のいずれかまで継続した。

 LDL-c値と心筋梗塞やアテローム硬化性心血管疾患の関係は、Cox比例ハザードモデルを用いて検討した。多変量解析の際に補正する共変数は、年齢、性別、喫煙、HDL-c、BMI、高血圧、推定糸球体濾過率とした。また、スタチンの予防的治療を行うことで、5年当たりの心筋梗塞を1件減らすための治療必要数(NNT)も推定した。

 2003年11月25日から2015年2月17日までにCGPSに登録された9万1131人を分析対象にした。年齢の中央値は56歳で、女性が57%だった。年代別の参加者数は、80~100歳が3188人(3%)、70~79歳が1万591人(12%)、60~69歳が2万1808人(24%)、50~59歳が2万4205人(27%)、20~49歳が3万1339人(34%)だった。追跡期間の平均値は7.7年で、1515人が初回の心筋梗塞を経験し、3389人はアテローム硬化性心血管疾患を経験していた。

 参加者全体でも、年代別の全てのグループでも、LDL-cの増加は心筋梗塞やアテローム硬化性心血管疾患の増加に関連していた。全体では、LDL-cが1.0mmol/L上昇当たりの心筋梗塞の調整ハザード比は1.34(95%信頼区間1.27-1.41)だった。同様にアテローム硬化性心血管疾患の調整ハザード比は1.16(1.12-1.21)だった。過去の研究では関連が見られないとされていた70~100歳の人でも、LDL-cの増加とイベントリスクの増加は有意な関連が見られた。

 次に家族性高コレステロール血症のレベルに相当するLDL-cが5.0mmol/L以上の人の心筋梗塞リスクを、3.0mmol/L未満の人と比較した。該当する人は80~100歳では216人(7%)、70~79歳では727人(7%)、60~69歳では1891人(9%)、50~59歳では1884人(8%)、20~49歳では1338人(4%)いた。80~100歳の心筋梗塞の調整ハザード比は2.99(95%信頼区間1.71-5.23)で、アテローム硬化性心血管疾患の調整ハザード比1.90(1.27-2.83)だった。他の年代群でもリスク増加は同様だった。

 参加者全体を年代別とLDL-cの濃度別に分類して、1000人・年当たりの心筋梗塞またはアテローム硬化性心血管疾患の発生率が高いグループを調べたところ、最もリスクが高かったのは年齢が80~100歳で、LDL-c5.0mmol/L以上の人だった。心筋梗塞は1000人・年当たり13.2件、アテローム硬化性心血管疾患は1000人・年当たり37.1件だった。

 全ての人が中強度のスタチンを使用すると仮定して、5年間に心筋梗塞を1件回避するための治療必要数を推定したところ、80~100歳の人々では80人、70~79歳では145人、60~69歳では261人、50~59歳は439人、20~49歳は1107人になった。同様に、5年間にアテローム硬化性心血管疾患を1件回避するための治療必要数は、年齢の高い群からそれぞれ、42人、88人、164人、345人、769人となった。

 これらの結果から著者らは、現代人の1次予防コホートでは、LDL-cが高い70~100歳の高齢者は、心筋梗塞やアテローム硬化性心血管疾患の絶対リスクが最も高くなっており、イベントの発症を1人減らすための治療必要数が最も低かったのもこの集団だった。そのため、高齢者人口が増加する今後の予防戦略を考える上で重要なデータが得られたと結論している。