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就寝時に灯りがあると肥満になりやすい

こんにちは、今日は肥満に関する文献を紹介します。寝る時に暗くしないと眠れない人もいれば、少し明るくないと眠れないという人もいますが肥満を防ぐためには食事・運動療法はもとより睡眠時の環境にも配慮が必要そうです。

以下が詳細な内容です。
Association of Exposure to Artificial Light at Night While Sleeping With Risk of Obesity in Women
Park YM, et al. JAMA Intern Med. 2019 Jun 10;179(8):1061-71. 

睡眠時間が短いことは肥満と関連づけられている。米国立衛生研究所(NIH)のYong-Moon Mark Park氏らは、乳癌の危険因子を探るためのコホート研究のデータを利用して、夜間の睡眠環境に人工的な照明があることが、女性の体重増加と肥満、過体重の発生に関係していると報告した。

 動物実験では、夜間の光曝露は、メラトニン・シグナル伝達、サーカディアンリズムや、睡眠障害に直接影響する可能性があり、それにより体重増加と肥満が発生することが示唆されている。齧歯類モデルでは、人工光が時計遺伝子の発現を抑制し、摂食行動を変化させ、体重増加を引き起こすことも示されていた。しかしこれまで、ヒトを対象に、就寝中の人工光曝露が肥満のリスクや有病率に関係するかどうかを検討する質の高い研究は行われていなかった。

 そこで著者らは、乳癌の危険因子を探るための前向きコホート研究Sister Studyに参加した35~74歳の女性を分析対象にした。Sister Studyは、2003年7月から2009年3月まで、米国の50州とプエルトリコで、本人は乳癌ではないが、姉妹の少なくとも1人が乳癌と診断されている女性を募集し、5万人超の女性を2015年8月まで追跡している。ベースラインで危険因子と健康状態を詳しく調査し、睡眠環境も調べている。

 この研究では、Sister Studyの参加者のうち癌と心血管疾患の病歴を持たず、交代制の仕事はしておらず、日中に睡眠を取る習慣はもたず、妊娠していなかった4万3722人を分析対象とした。就寝時の環境について、照明なし、寝室には小さな常夜灯またはクロックラジオのみ(常夜灯群)、寝室外の電灯からの光の侵入あり(室外光群)、寝室内の電灯またはテレビをほぼ一晩中付けたまま(電灯/TV群)の4群に分類した。

 主要評価項目は、ベースラインの肥満(BMIが30以上)、中心性肥満(腹囲が88cm以上、ウエスト・ヒップ比が0.85以上、またはウエスト・身長比が0.5以上)の有病率と、平均5.7年の追跡終了時点のBMIをベースラインと比較した過体重や肥満の発症率とした。ロバスト誤差分散を使用した一般化対数線型モデルを適用して、ベースラインの有病率と、追跡期間中の肥満や過体重の新規発生の相対リスクを推定した。多変量解析で補正に用いる変数は、組み入れ時の年齢、人種、居住地域、教育、家計収入、家族構成、婚姻、喫煙、飲酒、カフェイン、ベースラインの閉経、抑うつ、ストレスとした。

 条件を満たした4万3722人の女性(平均年齢55.4歳)のうち、7807人は就寝中に照明を使用していなかった。1万7320人が常夜灯群、1万3471人は室外光群、5124人は電灯/TV群に分類された。就寝中の人工光がより明るかった女性ほど、ベースラインでの肥満の有病率が高かった。照明なしで就寝していた女性を基準とすると、補正後の肥満の有病率は、常夜灯群で1.01(95%信頼区間1.00-1.02)、室外光群は1.03(1.02-1.04)、電灯/TV群は1.06(1.05-1.08)だった。人工光曝露があった全ての女性を対象に肥満の有病率を推定すると1.03(1.02-1.03)になった。

 中心性肥満についても同様だった。腹囲88cm、ウエスト・ヒップ比が0.85、ウエスト・身長比が0.5以上、という指標のどれを用いても、照明なし群に比べ、人工光が強いグループほど中心性肥満の有病率は高かった。就寝時に人工光があった全ての女性を対象に有病率を推定すると、腹囲88cm以上は1.12(1.09-1.16)、ウェスト・ヒップ比0.85以上は1.04(1.00-1.08)、ウェスト・身長比0.5以上は1.07(1.04-1.09)になった。

 上記の分析の調整に、睡眠時間や睡眠の質などを加えると、また、身体活動やエネルギー摂取などの要因を加えると、人工光曝露との関係は一部で弱まったが、引き続き多くの指標に有意差が見られた。

 就寝時の人工光は、追跡期間中の肥満の発生率とも関係していた。照明なしの人を基準にすると、ベースラインでBMIが30未満だったのに肥満になるリスク比は1.19(1.06-1.34)だった。電灯/TV群では5kg以上の体重増加のリスク比が1.17(1.08-1.27)、BMIの10%以上の増加が1.13(1.02-1.26)、過体重の発生が1.22(1.06-1.40)、肥満の発生が1.33(1.13-1.57)と有意な関係を示した。

 就寝時に人工光を使用している女性で、追跡期間中の5kg以上の体重増加と関連が強かったのは、ベースラインで肥満だった女性(リスク比1.06、0.93-1.21)よりも正常体重の女性(リスク比1.17、1.00-1.38)だった。興味深いことに、より健康的な食事を摂っている女性や、1週間の身体活動量が多い女性の方が、人工光曝露による体重増加リスクが高かった。

 これらの結果から著者らは、就寝中の人工光曝露は、体重増加と過体重または肥満の危険因子である可能性が示されたと結論している。また、前向き研究や介入試験を行ってさらに検討すれば、人工光曝露の抑制が肥満予防になるかどうかが明らかになるだろうと述べている。