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血圧を厳格に管理したほうが認知機能の低下が少ない

こんにちは、今日は血圧に関する文献を紹介します。日本の高血圧ガイドラインでは高齢者の血圧管理は140/90未満を目標としていますが、今回の論文データからは厳格な血圧管理のほうが心血管イベントだけでなく認知機能低下も防ぐことが示されています。

詳細な内容は以下となります。
Association of JNC-8 and SPRINT Systolic Blood Pressure Levels With Cognitive Function and Related Racial Disparity
Hajjar I et al. JAMA Neurol. 2017 Oct 1;74(10):1199-1205.

高齢の高血圧患者の降圧目標については議論がある。収縮期血圧(SBP)の目標値の設定が認知機能に及ぼす影響を調べるために、住民ベースのコホート研究に参加した高齢の男女を10年間追跡した、米国Emory大学医学部のIhab Hajjar氏らは、SBP120mmHg以下を目標にすると、より緩やかな降圧目標の患者よりも、認知機能検査のスコア減少が少なかったと報告した。

 米国の高血圧ガイドラインJNC-8は、高齢者のSBPの目標値は150mmHg以下にすることを推奨した。JNC-7の140mmHgから目標値を引き上げた主な理由は、観察研究のデータに基づいて、より厳格な降圧が、認知機能の低下、転倒や死亡のリスク上昇と言った有害事象を増やす可能性を懸念したからだ。しかし、その後に発表されたSPRINT試験のデータは、SBPを120mmHg未満にすると、140mmHgを目標値とした場合に比べ、転倒リスクの上昇なしに心血管イベントと死亡のリスクが低下することを示唆した。ただし、SPRINTに参加した患者の認知機能の変化については報告されていない。

 また、米国のガイドラインが示すSBPの目標値は、高血圧がある黒人患者の死亡率と合併症(特に認知機能の障害)発生率が高い可能性に注意を払っておらず、人種別に目標値を示したガイドラインはない。そこで著者らは、高血圧患者のSBP降圧目標値が認知機能へ与える長期的な影響を調べ、降圧目標に人種差があるのかどうかを探るための研究を計画した。

 高齢の地域住民の健康状態を追跡する観察研究Health Aging and Body Composition(Health ABC)試験では、年齢70~79歳の認知機能が正常な高齢者3075人が参加した研究だ。1997~1998年に、ピッツバーグ市とメンフィス市のメディケア受給資格者の中から、ランダムに選んだ郵便番号の地域に住んでいる高齢者を募集している。今回の分析では、参加者のうち高血圧の治療を受けていた1657人を対象とし、2007年まで10年間追跡した。

 ベースラインで参加者の基本データと健康状態を調査し、既往歴、処方薬や市販薬の使用状況その他を確認して登録した。認知機能は、Modified Mini-Mental State Examination(3MSE)と、Digit Symbol Substitution Test(DSST)を用いて評価した。ちなみにDSSTは、数字と記号をペアに組み合わせ、数字が並んだ表の下の空欄にすばやく記号を書き込んでいく検査だ。3MSEを用いた評価はベース医ラインから1年後、3年後、5年後、8年後、10年後の5回行った。DSSTは1年後、5年後、8年後、10年後の4回実施した。

 血圧は5分間安静にした後に座位で水銀血圧計を用いて測定し、受診する度に2回ずつ測定して平均値を求めた。SBPの平均値に基づいて、患者を120mmHg以下(SPRINTの目標値)、121~139mmHg(JNC-7の目標値)、140~149mmHg(JNC-8の目標値)、150mmHg以上(対照群)の4群に分類した。

 対象者の1657人のうち、5年後まで追跡できたのは1545人(93.2%)、10年後まで追跡できたのは1234人(74.5%)だった。ベースラインの血圧は、120mmHg以下が307人(18.5%)、140mmHg未満627人(37.8%)、150mmHg未満264人(15.9%)、150mmHg以上459人(57.7%)だった。10年後の血圧は1234人中、120mmHg以下が309人(25.0%)、140mmHg未満457人(37.0%)、150mmHg未満197人(16.0%)、150mmHg以上271人(22.0%)だった。

 10年間の追跡で、3MSEとDSSTのスコアの低下幅は、SBPレベルによって異なっていた。共変数で調整した10年間のスコア低下が最も大きかったのは150mmHg以上のグループで、3MSEが-3.7点、DSSTは-6.2点低下していた。低下が最も小さかったのが120mmHg未満のグループで、3MSEが-3.0点DSSTは-5.0点低下していた(いずれもP<0.001)。

 ベースラインで黒人の割合は47.3%だった。白人参加者に比べると、黒人参加者はBMIが高く、糖尿病と脳卒中の有病率が高く、教育レベルと収入は低い傾向を示した。150mmHg以上群と120mmHg以下群の10年間のスコア減少を人種別に比較すると、3MSEは白人参加者-2.6点、黒人参加者-4.1点だった。一方DSSTは-5.8点、黒人参加者-4.7点だった。

 これらの結果から著者らは、降圧治療を受けている70歳以上の高齢者では、SBPの目標値をSPRINTの120mmHg以下にした方が、JNC-8の150mmHg未満を目標とするより認知機能の低下は小さかったと結論している。