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炭水化物摂取量が多すぎると死亡率が増加する

こんにちは、今日は炭水化物摂取量と死亡率に関する文献について紹介します。結論としては食事におけるカロリーのうち炭水化物の占める割合を60%までとしたほうがよさそうです。

以下が詳細な研究の内容となります。
Associations of fats and carbohydrate intake with cardiovascular disease and mortality in 18 countries from five continents (PURE): a prospective cohort study
Dehghan M et al. Lancet  2017 Nov 4;390(10107):2050-2062.

 現行のガイドラインは、総エネルギー量に占める脂質由来のエネルギーを30%未満にし、飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換えて、飽和脂肪酸由来のエネルギーを10%未満にすることを推奨している。しかし、その根拠となっているデータのほとんどは欧州と北米の人々を対象とした研究に由来する。しかし世界の他の地域においても、欧米のガイドラインが有用かどうかは分からなかった。

 そこで著者らは、5大陸の18カ国で食事内容の調査を行い、総死亡と心血管イベントの発生を調べる大規模な前向きコホート研究PURE(Prospective Urban Rural Epidemiology)を計画した。社会経済的な要因の影響を考慮するため、低所得国(バングラデシュ、インド、パキスタン、ジンバブエ)、中所得国(アルゼンチン、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、イラン、マレーシア、パレスチナ人地区、ポーランド、南アフリカ共和国、トルコ)、高所得国(カナダ、スウェーデン、アラブ首長国連邦)で参加者を募集した。

 参加者は質問票を用いて、社会的状況(教育、収入、雇用)、ライフスタイル(喫煙、飲酒、運動強度)、既往歴と服薬状況を調べた。身長、体重、ウエストとヒップの周囲径、血圧を測定した。食生活は、各参加国に検証済みの食品摂取頻度調査票がある場合は、それを用いた。食品から摂取栄養素への換算は、米国農務省の食品組成データベースを参考に、各国独自の食品データを追加して、43種類の主要栄養素と微量栄養素のデータベースを作成した。

 2003年1月1日から2013年5月31日までに、14万8723人が食品摂取頻度調査に参加し、そのうち14万3934人は1日の摂取カロリーが500~5000kcalの範囲内だった。ベースラインから3年、6年、9年の時点で健康状態を詳細に追跡するが、1230人(0.8%)は追跡データが得られなかった。7369人(5.0%)は、心血管疾患の既往歴があったため、今回の分析から外した。残りの13万5335人を解析に含めた。

 主要評価項目は、総死亡と主要な心血管イベント(致死的心血管疾患、非致死的な心筋梗塞、脳卒中、心不全)に設定した。2次評価項目は、心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患死亡、心血管疾患以外の疾患による死亡について評価した。追跡期間の中央値は7.4年(四分位範囲5.3~9.3年)だが、参加国によって異なる。

 追跡期間中の死亡は5796例で、4784人が心血管イベントを起こした。心血管疾患による死亡は1649人で、3809人はそれ以外の疾患で亡くなっていた。338人は外傷による死亡だったため、食事と関連を分析する対象から外した。心血管疾患以外の死因はアフリカを除いて、癌が最も多く、次が呼吸器疾患だった。アフリカでは心血管以外の原因で、感染症による死亡が最も多かった。

 炭水化物の摂取量が多かったのは、中国、南アジア、アフリカで、脂質の摂取量が多かったのは北米と欧州、中東、東南アジアだった。蛋白質の摂取量は南米と東南アジアで多かった。炭水化物、脂質、蛋白質から摂取したエネルギーが総エネルギー量に占める割合に基づいて、人々を五分位群に層別化した。

 炭水化物の摂取量が多いことは、総死亡リスクの上昇に関係しており、最低五分位群と比較した最高五分位群の死亡のハザード比は1.28(95%信頼区間1.12-1.46)だった。心血管疾患以外による死亡のハザード比も1.36(1.16-1.60)と有意差を示した。しかし、炭水化物摂取量と、心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患による死亡とは、関連が見られなかった。

 脂質の摂取量を最低五分位群と最高五分位群で比較すると、総死亡リスクのハザード比は0.77(0.67-0.87)で、脳卒中が0.82(0.68-1.00)、心血管疾患以外による死亡0.70(0.60-0.82)で、脂質摂取量が多いとリスクが減少する傾向を示した。しかし、脂質摂取量と心血管疾患による死亡には、有意な関連が見られなかった。

 蛋白質摂取量も総死亡との間に逆相関関係を示し、ハザード比は0.88(0.77-1.00)だった。心血管疾患以外による死亡(0.85、0.73-0.99)との関係も有意だった。なお、動物性蛋白質の摂取は総死亡リスクの低下に関係する一方で、植物性蛋白質の摂取と総死亡リスクの間には有意な関係は見られなかった。

 飽和脂肪酸の摂取量は、総死亡リスクの低下と有意な関係を示し、最低五分位群と最高五分位群のハザード比は0.86(0.76-0.99)だった。同様に脳卒中のハザード比0.79(0.64-0.98)、心血管疾患以外による死亡は0.86(0.71-1.01)だった。

 一価不飽和脂肪酸の摂取量が多い群では、総死亡のハザード比は0.81(0.71-0.92)で、心血管疾患以外による死亡のハザード比も0.79(0.68-0.92)と有意差を示した。多価不飽和脂肪酸の摂取量が多い群も、総死亡のハザード比は0.80(0.71-0.89)だった。心血管疾患以外による死亡のハザード比も0.75(0.65-0.86)になった。

 3次スプライン曲線を用いて、各栄養素の摂取量と死亡リスクの関係を調べたところ、総エネルギー量に占める炭水化物由来のカロリーが60%を超えたあたりから総死亡のリスクが上昇し、70%を超えるとハザード比の信頼区間の下限が1.0を超えていた。総脂質やそれぞれの脂肪酸は、エネルギー摂取量に占める割合が増加しても、死亡率の増加は見られなかった。

 これらの結果から著者らは、炭水化物摂取量の増加は総死亡のリスク上昇に関連していたが、脂質や各脂肪酸の摂取量増加はむしろ総死亡リスクの減少に関連していた。これらの所見を踏まえて、世界的な食生活ガイドラインは再考すべきだと結論している。